ようこそ!いわき総合法律事務所ホームページへ! トップへ
トップページ > 読み物集 > 法律相談Q&A > 政府が「ブラック企業」の名前を公表!?問題解決につながるか
法律相談 Q&A
政府が「ブラック企業」の名前を公表!?問題解決につながるか

過剰なノルマを要求したり、低い賃金で長時間労働させるなどして、従業員を使い捨てにする企業のことを俗に、「ブラック企業」という。もともとは、若者中心に使われはじめたスラングだったが、最近では一般にも浸透する言葉になってきているようだ。

インターネットの掲示板では、このようなブラック企業を批判するスレッドが多数存在しており、なかには、「ブラック企業ランキング」というタイトルがついているものもある。そこには日夜、特定の企業名が挙がり、その従業員や退職者と思われる人から過酷な労働実態についての書き込みが行われている。

もちろん、これらの書き込みすべてが信用できるものではない。だが、ブラック企業の存在が身近なものとなりつつあることは間違いないだろう。このような状況の下、自民党はブラック企業対策として、社名の公表も含めて検討すべきだとする提言をまとめた。今夏の参院選の公約にも反映させる方向という。

はたして、行政がブラック企業の名前を公表することで、問題の解決につながるのだろうか。労働問題に詳しい岩城穣弁護士に聞いた。

●「ブラック企業の名前を公表することは有意義である」

「悪質な『ブラック企業』の会社名を公表することは、その企業を社会的な批判にさらし、改善を促すことができます。また学生などが就職するに際しての判断材料となり、有意義なことといえるでしょう」

このように公表の意義を語る岩城弁護士によると、「これまでも、違法行為を行ったり、社会問題を引き起こした企業は、行政機関によってしばしばペナルティを科されたり、企業名を公表されている制度がある」という。

「たとえば、建設現場などで重大な労働災害を発生させた企業は公表され、公共工事の指名競争入札に一定期間参加できなくなります。ほかにも、産地偽装を行った食品会社や耐震偽装を行った設計事務所なども公表され、行政処分などの制裁を受けることになります」

●公表にあたっては、「ブラック企業」の具体的な基準が必要となる

では、ブラック企業の公表はどのような形で行われるのがよいだろうか。

「そもそも、『ブラック企業』という言葉そのものは、『悪徳企業』や『ならず者企業』と同じような抽象的なレッテルに過ぎません。

したがって、『ブラック企業の名前を公表する』と言っても、『どのような場合がブラック企業に当たるのか』といった具体的な基準が必要になります。とりわけ政府が発表するとなれば、誰もが納得できる、明確な基準が必要でしょう」

岩城弁護士はこのように指摘する。では、ブラック企業の具体的な基準はどのようなものになるのだろうか。岩城弁護士は、現時点で考えられるものとして4つの例をあげる。

(1)違法な時間外労働や時間外手当の不払いについて、労基署から是正勧告を受けたこと(労基法違反)

(2)労働者の死亡が長時間過重労働やパワハラなどによるものであったとして、労基署から労災と認定されたこと(過労死・過労自殺の労災認定)

(3)上司等が違法なパワハラセクハラを行ったことについて、裁判で会社の責任が認められたこと(労働契約上の債務不履行責任、不法行為責任)

(4)従業員に対して暴行、脅迫、傷害、逮捕監禁、強要、違法行為の教唆などを行ったことについて刑事事件として摘発されたこと(犯罪への関与)


「(1)~(4)について、マスコミが自主的に取材して報道する場合は別として、政府や労働基準監督署(労基署)がこれらの事実を公表することはほとんどありません。もっとも、(1)のうち労基法違反が刑事訴追された場合に、労基署は公表することがあるようです。

しかも、(2)については、過労死を出した企業名について市民が労働局に情報開示請求をしたところ、労働局は「開示しない」との決定を行いました。これに対して、その不開示処分の適法性をめぐって現在、行政訴訟が行われています。

大阪地裁判決(2011年11月10日)は原告勝訴(不開示は違法)、大阪高裁判決(2012年11月29日)は原告敗訴(不開示は適法)と、まったく正反対の判決が下され、現在、最高裁の判断待ちとなっています」

このように実際の裁判を引き合いに出した上で、「自民党などが現在検討しているブラック企業名の公表の動きは、最高裁の判断にも大きな影響を与えると考えられます」と岩城弁護士は話している。

言葉が一人歩きしている感もある「ブラック企業」だが、きちんとした社会的批判を行うためにも、みんなで納得のいく基準を作ってみてはどうだろうか。

(2013/5/27弁護士ドットコム・トピックス掲載、「いわき弁護士のはばかり日記」No.120)

ページトップへ