2月28日深夜に起こった東京・吉祥寺の刺殺事件。「住みたい街ランキング」上位に位置し、犯罪のイメージとは縁遠い街で起こった突然の出来事は世間に大きなショックを与えた。
刺殺された女性が被害に遭ったのは、飲食店のアルバイトの帰り道だったという。飲食業界において、営業時間の関係で深夜労働が常態化している店は多い。
しかしながら深夜の帰宅は、昼間や夕方に比べ、犯罪に遭遇する可能性が高いといえる。そこで、仕事のために深夜の帰宅となり、その結果、犯罪に遭ってしまった場合は、労災は適用されるのだろうか。岩城穣弁護士に聞いた。
●吉祥寺の強盗事件は「通勤災害」と認定される可能性が高い
岩城弁護士によると、労災(労働災害)には、もともと業務に内在していた危険が現実化したといえる「業務災害」と、業務に就くためには避けられない通勤に内在する危険が現実のものとなったといえる「通勤災害」の2種類があるという。
吉祥寺の事件の場合は、飲食店でアルバイトをした帰り道に暴漢に襲われたケースなので、「通勤災害」といえるかどうかが問題となる。この点について、岩城弁護士は次のように述べる。
「飲食店で深夜までアルバイトをすれば帰宅が深夜になり、強盗や恐喝の被害に遭ったり女性が性被害を受ける危険が一般的にあるといえるので、『通勤起因性』が認められると思います」
したがって、「通勤災害として、労災が適用される可能性が高いと思われます」。
●「通勤災害」と認められなかったケースもある
このように結論を述べたうえで、岩城弁護士は「ただし」と言って、次のように付け加えた。
「被害を受けたときの通行場所が、いつも使用している通勤経路から外れていたり、合理的な経路・方法といえない場合には、通勤災害と認められない可能性があります」
また、「被害者が受けた加害行為が、見ず知らずの他人によるもの(いわゆる『通り魔』的なもの)であれば認められやすいのに対し、個人的な怨恨で『その人』を狙って待ち伏せをされたような場合には、通勤に内在する危険とはいえないとして、通勤災害と認められない可能性もあります」ということだ。
「過去の事例では、オウム真理教の信者から生命を狙われ、出勤途中で『VXガス』を噴射されて死亡したケースで、『殺害が通勤の機会になされたものにすぎない』として、労基署は通勤災害と認めませんでした」
このように通勤途中でも認められない場合もあるようだが、仕事の行き帰りに強盗にあった場合は、労災と認定されることが多いようだ。ただ、もちろん、そのような事件に巻き込まれないのが一番なのはいうまでもない。
(2013/3/23弁護士ドットコム・トピックス掲載、「いわき弁護士のはばかり日記」No.112)