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耳より法律情報(メールニュース)
性犯罪について刑法が大幅に改正されました!

 2017年、これまでの「強姦罪」を「強制性交等罪」とするなど性犯罪を厳罰化する110年ぶりの刑法改正が行われましたが、その後性暴力事件をめぐり2019年、福岡や静岡、名古屋の地方裁判所で4件の無罪判決が相次いだり、これに抗議するフラワーデモなどが全国に広がるなどしたことから、2023年6月16日、抜本的ともいえる大幅な改正が行われ、7月23日から施行されました。

 改正された刑法177条の条文について、以下、解説します(①~⑤の番号は、私が付したものです)。

【条文】

第177条(不同意性交等)

①「前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、」

②「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、」

③「性交、肛こう門性交、口腔くう性交又は膣ちつ若しくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)若しくは物を挿入する行為であってわいせつなもの(以下この条及び第179条第2項において「性交等」という。)をした者は、」

④「婚姻関係の有無にかかわらず、」

⑤「5年以上の有期拘禁刑に処する。」

「2 行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、性交等をした者も、前項と同様とする。」

「3 16歳未満の者に対し、性交等をした者(当該16歳未満の者が13歳以上である場合については、その者が生まれた日より5年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第1項と同様とする。」

 

【解説】

(1) 名称について これまでの「強制性交等罪」から、「不同意性交等罪」に変更され、被害者が「同意」していない性交等が罪に問われることになりました。

 なお、加害者・被害者の性別は問われません。女性であっても加害者になり得、男性であっても被害者になり得ますし、同性間の行為であっても犯罪が成立し得ることは、改正前と同じです。

(2) ①について

 「前条第1項」とは、「不同意わいせつ罪」を定めた第176条1項のことです。ここには、次のように規定されています。

「次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。

一 暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。

二 心身の障害を生じさせること又はそれがあること。

三 アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。

四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。

五 同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。

六 予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。

七 虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。

八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。」

 

 要するに、❶暴行又は脅迫、❷心身の障害、❸アルコール・薬物の摂取、❹睡眠その他の意識不明瞭、❺不同意のいとまがない、❻恐怖・驚愕、❼虐待に起因する心理的反応、❽経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力による不利益の憂慮、の8つの例示又はこれらに類する「行為又は事由」があれば、この罪が成立する可能性があることになります。

 

(3) ②について

 「同意しない意思」を「形成」し、「表明」し若しくは「全うする」ことが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じれば、この罪が成立する可能性があることになりました。注意しなければならないのは、被害者が「不同意」であることを積極的に表明する必要はなく、同意しない意思を「形成」・「表明」・「全う」できなかったと認められればよい、ということです。要は、“任意の積極的な同意”が示されない限り、この罪が成立する可能性があるのです。

 

(4) ③について

 「性交等」の行為についても、“性器の挿入”に限らず、非常に幅広い行為が含まれることになりました。

 

(5) ④について

 夫婦間であっても、この罪が成立することになりました。これまでのような「夫婦だから同意がなくてもよい」という考え方は明確に排斥されました。

 

(6) ⑤について

 「5年以上」の刑期については変更がありません。なお、ここにいう「拘禁刑」というのは、従来の「懲役刑」のことです。

 

(7) 3項について

 同意可能年齢が、これまでの13歳から16歳に引き上げられました。16歳以下の男女と性交等を行うことは、仮に同意があっても許されないということです。

& ただし、13歳から15歳までの人との性交等は、5歳以上の年長者が処罰対象になります。年齢差が4歳以下の人同士の性交等は除外されるということです。

 

(8) 時効期間の延長

 これまでの強制性交等罪の公訴時効は10年でしたが、不同意性交等罪の公訴時効は20年となりました(刑訴法250条)。

 また、被害当時に被害者が18歳未満の場合は、被害者が18歳になるまで時効期間が延長されます。

 

 このように、今回の法改正は大変重要なものです。

 これによって、今後「性的自己決定権」「性的人格権」という考え方が確立していくことが期待されます。

 なお、今回の刑法の改正は、民事上の不法行為の成立要件にも影響すると考えられます

                             (弁護士 岩城 穣)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.60」 2023.7.31発行)

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