近年、政府は、働き方改革実行計画等において、副業・兼業の普及促進を図り、二重就労を強く奨励しています。しかし、このような計画は、経済界の要望に応じたものにすぎず、労働者側の保護や補償内容については、十分な議論が尽くされてきていませんでした。
今般、12月10日に開催された厚生労働省の労働政策審議会において、二重就労者の労災認定について、2つの勤務先での負荷を総合して評価するとの方向性で進めていくことが確認されたそうです。厚生労働省は、来年の通常国会に労災保険法等の改正案を提出し、来年度中の施行を目指すとも報道されています。
労災認定を得るための最も重要な要素のひとつが残業時間です。労基署は、労災事故が発生した直前のおおむね6か月間でどれだけの残業時間を強いられていたかどうかを重要視しています。しかし、副業・兼業で仕事を行っている労働者の場合は、勤務先ごとに残業時間を計算するため、労災認定を得ることが難しくなるということがありました。今回の改正が行われれば、2つの勤務先での労働時間を通算した上で残業時間を計算することになるため、より労災認定がされやすくなります。また、労災が認定された場合の給付額についても、2つの勤務先の賃金を合算して計算されるようになりますので、労働者や遺族の補償内容もより手厚くなります。
厚生労働省は、一刻も早く改正に動くべきです。しかし、最も注意すべきことは、副業・兼業をする者が増加することにより、労災事故がさらに発生してしまう可能性があるということです。補償制度を充実すべきことは当然であって、政府としては、労災事故が発生しないような制度や枠組みをつくることをきちんと議論していただきたいものです。
(弁護士 稗田 隆史)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.20」 2019.12.27発行)