1 相続法改正~預貯金債権の払戻し制度~
相続法の大きな改正があったことは今年のメールニュース9号・13号でもお伝えしました。その時に紙幅の関係上ご紹介できなかった「預貯金債権の払戻し制度」について、ご紹介します。
2 問題となっていたところ
現行の相続制度では、遺産分割が終了するまでの間は、相続人単独では預貯金債権の払戻しができませんでした。つまり、平成28年12月19日最高裁大法廷決定により、①相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり、②遺産分割が終了するまで、共同相続人による単独での払戻しができないこととされたのです。
しかし、それでは生活費や葬儀費用の支払い、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも、遺産分割が終了するまでの間は、被相続人の預金の払戻しができないため、問題点が指摘されていました。
3 預貯金債権の払戻し制度
(1)「預貯金債権の払戻し制度」の創設 そこで、今回の相続法改正において、遺産分割における公平性を図りつつ、相続人の資金需要に対応できるよう、預貯金の払戻し制度(次のア・イ)が設けられました。
ア 家庭裁判所の判断を経ずに払戻しが受けられる制度の創設 預貯金債権の一定割合(金額による上限あり)については、家庭裁判所の判断を経なくても金融機関の窓口における支払を受けられるようになりました。遺産に属する預貯金債権のうち、一定額については、単独での払戻しを認めるものです。単独で払戻しをすることができる額は、当該払戻しを行う共同相続人の法定相続分×相続開始時の預貯金債権の額(口座基準)×1/3という計算式で算出されます。ただし、1つの金融機関から払戻しが受けられるのは150万円までです。
例えば、ある被相続人につき、相続人として長男・次男の二人がおり、遺産として預金600万円がある場合には、長男は、100 万円の払戻しが可能です(計算式:法定相続分1/2×600万円×1/3)。
イ 保全処分(仮分割の仮処分)の要件緩和
また、預貯金債権に限り、家庭裁判所の仮分割の仮処分の要件が緩和されることとなりました。すなわち、仮払いの必要性があると認められる場合には、他の共同相続人の利益を害しない限り、家庭裁判所の判断で仮払いが認められるように家事事件手続法が改正されたのです。
(2)上記アの方策については限度額が定められていることから、小口の資金需要についてはアの方策を用い、限度額を超える比較的大口の資金需要がある場合についてはイの方策を用いることになるものと考えられます。
なお、上記預貯金債権の払戻し制度は2019年7月1日から施行されています。
4 具体的に誰がどのような手続でどれくらい払い戻しを受けられるのか、相続が生じた後はもちろんですが、できればその前に、気軽に弊所弁護士までご相談ください。
(弁護士 安田 知央)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.17」 2019.9.30発行)