1 日本の国家試験の受験資格を求めて暗中模索
病院や福祉施設などで音声機能、言語機能、聴覚に関するリハビリテーションを行う専門家である「言語聴覚士」という資格は、国家試験をパスしなければならない国家資格のうちのひとつです。Yさんは1976年に日本に生まれ、2003年にカナダの言語聴覚士養成学校を修了して言語聴覚士資格を取得し、カナダの公立病院で言語聴覚士として勤務したのち、2005年に帰国した女性です。
Yさんは、カナダでその資格を得ていたものの、日本で言語聴覚士として働くには日本の国家試験を受けて資格を取る必要があります。Yさんは2011年8月、自分のような外国の有資格者がどうすれば日本の国家試験を受けられるのか、厚生労働省へ問い合わせました。
すると担当者から、受験資格を認定するための基準があり、一定の資料を提出のうえその「認定」を受ければ国家試験を受験できると聞かされました。Yさんは、資料収集のためカナダの弁護士に協力を依頼するなど、大変な苦労をして資料を提出しましたが、厚労省の担当者から「授業時間数が足りない」との指摘を受けました。
しかし、Yさんはカナダの養成学校のほか、言語聴覚に関する米大学のドクター過程及び日本の大学の博士課程等を修了した方です。これほど言語聴覚に関して学び続けているのに授業時間が足りないとは、納得できません。Yさんは担当者と協議を重ねましたが、担当者から連絡さえまともにもらえない状況が続いているうちに、2013年度の試験は受験の出願さえできませんでした。
2 岩城弁護士に相談し意見書と追加資料を提出するも不認定処分
そんな状況の中、Yさんは2014年4月、岩城弁護士に相談しました。
岩城弁護士は、2014年5月、Yさんが実質的に認定基準を満たしていると主張する意見書を提出し、同年6月、Yさんとともに厚労省まで出向いて担当者に面談するとともに、追加資料の提出も行いました。しかし、厚労省はその後なかなか決定を出さず、2014年度の受験願書受付期間経過後に、Yさんのもとに不認定の通知書が届きました。
3 行政訴訟の提訴と受験資格の認定
(1)Yさんは悩みましたが、行政訴訟を起こすことを決断しました。2014年に岩城弁護士のもとで司法修習生として弁護修習をした稗田弁護士と私(私は2014年6月の厚労省担当者との面談にも当時修習生として同席しました。)が弁護団に加わり、Yさんとの打合せを重ねて、詳細な訴状と書証を作成しました。
(2) 2015年4月30日、大阪地裁に行政訴訟を提起。同年6月25日の第1回口頭弁論のあと、別室で進行協議が行われましたが、意外にも被告国側から、「いくつかの資料を追加してもらえれば、受験資格を認定する方向で検討している」との発言があったのです。
(3) 翌日、厚労省の裁判担当者から電話があり、追加資料について直接説明したいので厚労省まで来てほしいと言われたため、Yさん、稗田弁護士、私の3人で厚労省にまで出向き、担当者と面談しました。
求められた資料は比較的容易に提出することができ、それを踏まえ、2015年8月19日付けで、「言語聴覚士法第33条第6号の規定により、言語聴覚士国家試験の受験資格を有することを認定する」との認定書が送られてきました。とはいえ、この認定書を得るために、Yさんは約4年間を要し、行政訴訟まで起こさなければならなかったのです。
4 Yさんの国家試験受験と合格
Yさんは、2015年の年末に言語聴覚士国家試験の受験を申請することができ、2016年2月の受験を迎えました。
そして3月30日、Yさんから国家試験合格の報告メールが届きました。Yさんと弁護団の苦労が報われたことを、事務所内で拍手して喜び合ったことはいうまでもありません。
Yさんは今とある大学病院耳鼻咽喉科専属で唯一の言語聴覚士としてご活躍されています。 もう二度と、Yさんのような方が日本の国家試験受験資格を得るために理不尽な苦労を重ねなくて済むよう、願うばかりです。
(弁護士 安田 知央)
(なお、当事務所のHPに、より詳しい事案紹介に加えて、Yさんの声も掲載していますので、ぜひご覧下さい。)→こちらをクリック下さい。