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春告鳥 第16号
岩城弁護士の過労死問題最前線

◆パワハラ防止義務が全企業に適用へ

 企業に対するパワハラ防止対策の努力義務を定めたパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が、2022年4月から中小企業も含めた全企業に適用が拡大されました(本号2ページ参照)。今後は、中小企業においても、①事業主としての方針の確立と周知、②相談窓口の設置と適切な対応、③パワハラ発生時の迅速な措置と対策、④被害者・加害者双方のプライバシー保護、パワハラ申告者に対して不利益取扱いをしないことの周知・啓発、などが求められます。罰則は定められていませんが、遵守しなかった企業は、パワハラをめぐる損害賠償請求訴訟で雇用者としての安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

◆脳・心臓疾患の労災認定件数の減少傾向続く

 2022年6月24日、厚労省は「令和3年度の過労死等の労災補償状況」を公表しました。これによると、新規申請数は脳・心臓疾患753件、精神疾患2346件で、認定件数は脳・心臓疾患172件(認定率32・8%)、精神疾患629件(認定率32・2%)となっています。

 脳・心臓疾患の労災認定件数は低下傾向が続いており、約15年前に比べて約2分の1、約5年前と比べても3分の2となっています。これは、過労死が減少しているわけではなく、厚労省の通達等により労働時間の認定が厳しくなっていることが原因と考えられます。

 他方、昨年9月の脳・心臓疾患の労災認定基準の改定により、時間外労働時間だけでは月80時間に達していなくても、それ以外の負荷要因とあわせて総合評価されることになったことが影響してか、時間外労働時間が「60時間以上80時間未満」の認定件数が増えていることが注目されます(前年の17件から29件に増加)。認定基準の改定の影響は、令和3年度の後半以降に表われると考えられることから、来年度にどの程度増加するかが重要です。

◆精神障害の認定基準についての専門検討会の開催状況

 脳・心臓疾患の認定基準に続いて、精神障害の認定基準の改正についての専門検討会が2021年12月から本格的に始まっています(現在第6回まで開催)。現行認定基準の最大の問題点の一つが、現行認定基準では「すでに精神障害に罹患していた人が、業務上の強い心理的負荷を受けて精神障害が増悪したケース」(発症後増悪)がほとんど救済されない基準になっている点ですが、これについては、まだ正式な議題として取り上げられていません。専門検討会が意見書を取りまとめるのは2023年春以降と思われ、今後の議論を注視するとともに、過労死弁護団として適宜意見書を提出していく予定です。

                              (弁護士 岩城 穣)

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