西谷文和さんの「パレスティナ・ガザ取材報告会」に参加して

 2025年1月24日、在阪法律家5団体主催で、フリージャーナリストの西谷文和さんを講師にお招きし「パレスティナ・ガザ取材報告会」が行われました。西谷さんは、2023年10月にガザ地区で紛争が起きてから、2024年3月と10月の2度、イスラエルを訪問取材しており、そのときの取材内容を映像を交えて報告していただきました。

 お話を伺って印象的だったのは、3月に訪問したときと10月に訪問したときとで、世論が全く変わっていたということです。3月には戦争継続反対の集会やネタニヤフ首相の退陣を求めるデモも多くあったのが、10月には戦争支持一色になっていたそうです。パレスチナの人々への共感を示す集会を弾圧し、ガザで多数の市民が殺害されているという事実を伝えるマスメディアを抑圧する一方で、ガザでの市民の被害はフェイクニュースであるとか、ガザの人々が電気も水道も使えないことを揶揄するなどのSNSの投稿があふれ、それがイスラエルの人々に広まっていることの影響を指摘しておられました。

 また、イスラエルには男女ともに兵役があり、そこで徹底的な愛国心とアラブへの敵意を教育されることも、このような情報が容易に受け入れられる背景にあるのだといいます。ハマスによる10月7日の攻撃の直後、イスラエルのガラント国防大臣が「ハマスは人間ではない。アニマルだ。」と発言しましたが、多くのユダヤの人々はこの発言に違和感を持たないそうです。

 戦前・戦中の日本でも、戦争に反対する者は非国民として糾弾され、戦争を支持する意見が溢れていたと聞きます。自分たちが外敵に脅かされている、自分たちの仲間が外敵に殺されているという感覚を持つときに、その外敵を憎み、戦争を支持するというのは人間社会にとって普遍的なことなのでしょう。ましてSNSが発達した今日では、自分と同じ意見や情報ばかりが流れることで、一層戦争支持の世論が広まりやすくなっています。そのようななかで社会の流れに抗して平和を叫び続けることができる人は決して多くはないでしょう。

 今回の西谷さんの報告をお聞きして、パレスチナの人々には本当に救いがなく、暗澹たる気持ちになりました。翻ってわが国をみれば、現状、隣国の脅威を強調して、軍事力を急速に拡大しています。万一の備えの必要性自体を否定するつもりはありませんが、抑止論を強調しすぎることは、戦争を回避させるどころか、軍事的な緊張と戦争への危険を高めているように思えてなりません。むしろ人的な交流や好意的な情報発信を強め、相互理解と共感を促すことこそが、地道であっても平和を維持するために重要なことのように思います。

弁護士 松村隆志
 (いわき総合法律事務所メールニュース 春告鳥メール便No.73 2025/2/17発行)