「民事裁判のIT化」に関心を!

◆報道によると、民事裁判を提訴から判決まで全面的にIT化する内容の答申案を1月28日の法制審議会(法相の諮問機関)の部会がまとめたとのことです。

 2月に予定される法制審総会での答申を経て、法務省は民事訴訟法などの改正案を今の通常国会に提出する方針で、セキュリティー対策も講じたうえで2025年度の全面実施を目指すとのことです。

◆答申案には、次のようなことが記載されています。

・現在裁判所に持参・郵送している訴状や準備書面の提出を、ネットを通じて裁判所の専用システム上でできるようにする。

・現在相手方に郵送している送達手続きは、提出の通知を受けた相手方が自分でシステムにアクセスして閲覧・ダウンロードする(システム送達)。何もしなくても通知から1週間が過ぎれば送達されたと見なす。

・口頭弁論の手続きは、裁判所に行かず映像と音声によるウェブ会議で行えるようにする。

・証人尋問も、証人が遠くに住んでいる場合などに加え、新たに年齢や心身の状態から出頭が難しい場合や当事者に異議がない場合にも、同様に可能とする。裁判官は従来どおり法廷で手続きを進め、審理の傍聴もできる。

・判決文は、電子データで作成してシステム送達を可能にする。準備書面や書証なども含む裁判記録を紙で裁判所ごとに保管している現状を改め、電子化して一元管理し、閲覧・ダウンロードをシステム上でできるようにもする。

 既に現在でも、当事者双方の同意のもとに弁論準備手続きをウェブ会議で行うなど、ある程度IT化が進んでいますが、これを訴状の提出から判決まで、すべてIT化しようというものです。

◆一般に、ITを活用することは社会生活にプラスになりますが、インターネットを使うことは国民の権利であって義務ではなく、お年寄りや障がい者など「IT弱者」も相当数存在しています。

 また、知らないうちに訴状が送達されていたり、判決が下されていたなど、あってはならないことです。

 民事訴訟のIT化は、国民の「裁判を受ける権利」(憲法32条)にも関わる、大変重大な問題です。

 今後の国会での議論を、慎重に見守っていきましょう。

(弁護士 岩城 穣)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.45」 2022.1.31発行)