「マイナンバー制度」の行き着く先は?

1 「マイナンバーカード」の申請者数が9451万人に達し、ついに国民の75%を超えました(2023年3月5日現在)。

有名人を使った膨大な広告宣伝、「マイナちゃん」「マイナポイント」といった可愛いイメージ作戦、2万円もの「マイナポイント」の付与などの効果が現れたといえます。

マイナンバーとは、住民登録のあるすべての国民に政府が付けた12桁の番号です。これまで縦割り行政で番号が振られていたのを、一つの共通番号に紐づける(連結する)ものです。国民一人ひとりの情報を一元的に管理する、いわば「巨大なデータベース」です。

このような一元管理システムは、政府の悲願でした。かつて、1968年に佐藤内閣が導入しようとした「国民総背番号制」は国民の強い反対にあって頓挫し、1983年の納税者番号制度(グリーンカード)導入も国民の反対で撤回されました。2002年から運用開始された「住民基本台帳ネットワーク」(住基カード)は国民のわずか5%しか交付されていません。今回、初めて政府は当初の狙いを達成したといえます。

2 この問題を論じるには、以下の点がポイントだと思います。

(1) 紐付けの範囲

当初は、社会保障、税、災害対策の分野に限るとされていましたが、その後次々と拡大され、現在、所得や年金、健康保険、雇用保険、ワクチン接種、預貯金口座(任意)などの様々な個人情報と紐づけられています。今後、医師・看護師・救急救命士・介護福祉士・保育士など32の国家資格との紐付けなども検討されています。

(2)紐付けの強制(義務化)

政府は、2024年秋には健康保険証を廃止し、マイナンバーカードに一本化すると発表しています。運転免許証との一体化についても、既に道路交通法の改正案が国会に提出されています。 これらが実現すると、マイナンバーの利用登録を事実上強制することになり、一生涯にわたる医療・介護の情報や、交通違反歴などががこのシステムに取り込まれることになると考えられます。

(3) 利用目的

政府が莫大な費用をかけて、このように熱心にマイナンバー制度を推進しているのは、①国民の統合のために個人を管理・監視すること、②データベースから得られる情報を利用して各種の政策を遂行していくことにあります。

(4) データの管理・漏洩の危険

これだけ膨大かつ詳細な情報・データであるため、その管理が極めて重要になりますが、データが漏洩しない保障はありません。現在、世界でも日本でも情報システムへのハッキングが後を絶ちません。時には外国の政府機関が他国の政府や国民についての情報をハッキングすることさえあります。関係者による漏洩についても、実際に管理するのは受託した民間企業ですので、情報漏洩を完全に防ぐことは不可能ではないでしょうか。情報は一度流出してしまうと、回復することは永久にできません。

(5) 個人情報について国民に保障されるべき権利とは?

EU(ヨーロッパ連合)では、2018年に施行された「一般データ保護規則」では、「プロファイリング(ある人物の個人情報や過去の行動を分析し、今後の行動などを推測すること)をされない権利」が定められ、また、世界的規模で個人情報を集めて活用を図っている巨大IT企業のGAFA(グーグル、アップル、Facebook、アマゾン)に対する様々な規制が始まっています。

日本では、本来基本的人権であるはずの国民の「情報コントロール権」について、議論も認識もほとんど進んでいません。行政の末端や市民同士の「プライバシーの尊重」ばかりが強調され、例えばPTAや同窓会名簿さえ作らなくなるなど、結果として国民や地域が分断されバラバラになる一方で、国家が国民全部の情報を着々と収集しているという、文字どおり監視国家になりつつあります。

3 75%の国民がマイナンバーカードの利用登録を済ませた現在、もはや元に戻すのは難しいでしょう。今後、

(1) 申請しない・できない人に不利益を与えないこと

(2) 申請した人たち個人データの政策的利用を制約・監視するシステムの確立

(3) 情報の漏洩を防ぐための万全の担保制度 などが必要と思われます。

(弁護士 岩城 穣)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.56」 2023.3.9発行)