既にご存じの方もおられると思いますが、今年5月21日から改正民事訴訟法が施行され、民事訴訟の手続きが全面的にデジタル化されました。既に数年前から「チームズ」を使ったウェブ会議による弁論準備期日などが始まり、私たちが裁判所に出向くことが激減しましたが、今後さらに減っていくことになります。
現時点では民事訴訟だけですが、2年後の2028年には民事執行、民事保全、破産・倒産、家事事件手続きなどにも拡大される予定です。
1 デジタル化の内容
あるサイトでの次のような分類がわかりやすかったので、それに沿って説明します。
【e提出】(オンライン申立て、書類提出)
①訴状、準備書面、証拠などのオンライン提出(「mints」という裁判所のシステムを利用します)
②弁護士は原則これに従う義務
③手数料は電子納付
【e法廷】(ウェブ会議の利用拡大)
①口頭弁論・争点整理
②証人尋問(双方が同意した場合)
【e事件管理】(訴訟記録の電子化、システム送達)
①訴訟記録の電子データ管理(閲覧・謄写も)
②判決書や送達のシステム送達
2 デジタル化によるメリット
・遠隔地の裁判所に出頭する手間や移動コストの削減
・書類の印刷や郵送作業の効率化、紙資源の削減
・手続きの迅速化、審理期間の短縮
などが期待されます。
3 デジタル化における課題
・パソコン環境のない本人訴訟などへのサポート(デジタル化に対応できない弁護士は仕事自体ができなくなります)
・セキュリティ・システム障害対策(裁判ではプライバシーや企業秘密が多く取り扱われるため、サイバー攻撃などが行われると大変なことになる可能性もあります)、
4 デジタル化によって紛争の適切な解決が図れるか
たしかに、デジタル化は時代の流れであり、大きくは避けられないといえます。
しかし、民事訴訟は、市井の市民同士の泥臭い紛争も多く、また労働者や消費者、障がい者といった社会的弱者が使用者や大企業、自治体や国といった社会的強者に対して起こす事件も数多くあります。
そのため、民事訴訟では、市民やマスコミが傍聴する前で弁論を戦わせ、また厳しい証人尋問を行うことによって権利が救済されてきたというのも裁判の歴史です。
特に、証人尋問は、証人のわずかな表情の変化や視線の泳ぎ、声の上擦りなどを、裁判官が見抜いて心証を形成することもあります。平板なディスプレイの向こうにいる証人に、果たして私たち代理人が斬り込めるか、それを裁判官がしっかりと見据えることができるかという点で不安があります。
さらにいえば、AIが今後いっそう広がり、訴状や準備書面、ついには判決もAIが書く時代になるかもしれません。民事訴訟が流れ作業やオートメーション化した「紛争処理工場」になってしまわないでしょうか。地裁や簡裁などの裁判所も整理・統合されていくでしょう。そして、最後には、私たちのような法廷弁護士はもちろん、生身の裁判官自身も不要になってくるかもしれません。
裁判制度に限りませんが、何とも恐ろしい時代になってきたように思うのは、私だけでしょうか。
弁護士 岩城 穣
(いわき総合法律事務所メールニュース「春告鳥メール便」(2026年8月10日発行)

