特有財産の計算方法が問題となった離婚事件が解決

1 はじめに

 依頼者(夫側)は、相手方(妻側)と平成24年に結婚し、令和元年11月に別居を開始しました。依頼者と相手方は婚姻期間中にマンションを購入しており、マンション購入にあたって夫の両親から贈与を受けていました。令和5年になって妻側から申し立てられた離婚調停では、マンションの価値のうち、どこまでが財産分与の対象となるかが争点の一つとなりました。

2 問題の所在

 前提として、財産分与とは夫婦が婚姻期間中に協力して形成した財産を清算することを主な目的とする制度です。そのため、婚姻前から有していた財産や、夫婦の一方が受けた贈与など、一方のみの固有の財産(特有財産)は清算の対象となりません。

 夫婦は、マンションを4000万円で購入しました。購入の際には夫の両親から500万円の援助を受けて頭金とし、残りは3500万円の住宅ローンを借りて支払いました。現在、不動産の価値は5000万円に値上がりしており、住宅ローンの別居時の残高は2500万でした(※金額は実際の事例から変更しています)。

 夫の両親から援助された500万円は夫の特有財産にあたるため、財産分与にあたってはその価値を除かなければなりません。しかし、その500万円は住宅購入資金に充てられており、その後に不動産の価値が変動していることから、現在の不動産の価値に占める観念的な特有財産の割合をどのように評価すべきかが問題となりました。

3 双方の主張

⑴ 相手方は、「(現在の不動産評価額ー別居時残ローン額)×特有財産からの支出額÷不動産購入額」という計算式で現在の特有財産の評価額を算出すべきであると主張しました。つまり、不動産の正味財産額に、不動産購入の際の特有財産の占める割合を掛けるという計算方法です。これによれば、夫の現在の特有財産の評価額は312万5000円(=(5000万円ー2500万円)×500万円÷4000万円)となります。

⑵ しかし、このような計算方法は、夫婦が共同して負担するはずの住宅ローン残金の一部(上記の金額を前提とすると12.5%)を夫固有の債務と評価してしまっており、その結果夫の現在の特有財産を過小評価しています。そこで、当方からは、「現在の不動産評価額÷不動産購入額×特有財産からの支出額」という計算式で現在の特有財産の評価額を算出すべきであると主張しました。この計算式では、夫の現在の特有財産の評価額は625万円(=5000万円÷4000万円×500万円)となります。

4 解決の内容

 調停では、当方の主張を相手方が受け入れ、依頼者にとっても納得のいく財産分与額での解決となりました。我々としても大変うれしく思います。

5 さいごに

 相手方が主張した計算方法は実務上よく見受けられるものであり、この計算方法を採用した裁判例も存在します。このような計算方法がこれまで用いられてきた背景には、バブル経済の崩壊により、不動産価値の大幅な下落を社会が経験したということがあるのではないかと考えています。

 例えば上記の例で、現在の不動産評価額が購入時の7割の2800万円に減少していた場合を考えると、当方の主張する計算式を用いた場合350万円は夫の特有財産となり、2500万円の住宅ローンがあるので、妻には一切分与されないことになります。このような結論が妥当ではないと考えられて、相手方主張のような計算方法が用いられてきたのだと思われます。

 近年は不動産価格が安定しており、バブル崩壊後の社会状況とは全く異なっています。相手方主張のような計算方法は、今後は用いられるべきではないでしょう。

弁護士 松村 隆志