子の引渡し・監護権者の指定を求める事案で父親の主張を認める審判が出ました!

1 事案の概要

依頼者(夫)と相手方(妻)は、平成28年に婚姻した夫婦です。両名の間には現在7歳の長男がいます。相手方は、令和元年に脳出血を発症し、それ以降依頼者が長男の監護養育や日常の家事を主として行ってきました。

相手方は、特に令和4年9月頃から、長男を相手方実家に連れて帰りその校区の小学校に通わせると主張するようになり、依頼者がその主張を拒んでいると、令和5年1月26日、突如長男を相手方実家へと連れ去り、別居を開始しました。

依頼者は、相手方と連絡がつかないため、やむなく同年2月6日当事務所に相談し、同月10日、当事務所から子の引渡しと子の監護者の指定を求める審判を申し立てました。

2 前提としての子の監護者の指定の判断基準

婚姻中の夫婦が別居していて、子どもの監護や居所について父母間で協議が調わない場合は、家庭裁判所が後見的に監護者を決定することになります。

誰が監護者となるべきかについては、子の利益が基準となりますが、具体的には、①父母それぞれの事情としては、監護能力(親族の援助や監護補助者も含む)、監護の実績・継続性、経済力、心身の健康状態、暴力・虐待・ネグレクトの有無、監護開始方法の違法性、面会交流の許容性、子との情緒的結びつきなど子どもの監護養育に影響を及ぼす事情が考慮され、②子の側の事情としては、子の年齢、性別、心身の状況、養育環境への適応状況、子の意向などが総合的に判断されることになります。

3 裁判所の判断

裁判所は、家庭裁判所調査官による調査を行ったうえで、

  • ①相手方が脳出血で倒れて以降は依頼者が主として子の監護を行ってきたこと
  • ②現在の監護状況としては、依頼者の側の方が親族の協力が確保され、子にとって住み慣れた住居であるなど監護状況が安定していること
  • ③子の愛着形成は依頼者側の方が強いこと
  • ④相手方の監護開始方法が子の心情に配慮することなく連れ去りによって開始されたものであり、子に対する配慮に欠けていること

等の諸事情を考慮し、依頼者を子の監護者として指定し、依頼者に子を引き渡すよう決定しました。

4 事件の解決を受けて

実務上、子にとって母親が必要不可欠な存在であるという考え方(「母性優先の原則」)があり、子の年齢が幼ければ幼いほど母親が親権者・監護者とされる傾向が強いです。本件も、連れ去りによって相手方単独の監護が開始していますが、仮に小学校に進学してある程度の期間が経過していた場合には、監護養育環境の安定性・継続性の観点から、相手方を監護者とする判断となっていた可能性があると思います。

そのため、連れ去られてから間をおかずに審判を申し立て、相手方に監護実績を作らせなかったことが今回の判断につながった可能性があります。なにより、依頼者本人が家事・育児に主として関わってきて、お子さんも依頼者によくなついていたことが、裁判所の判断に結び付いたのだと思います。

困難な事件について、依頼者の望む解決となり、大変うれしく思います。

弁護士 松村隆志

(春告鳥第19号 2024.1.1発行)