昭和23年刊行の文部省「民主主義」を読んで

一雨ごとに暖かくなって参りましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか。

さて、私は去る2月17日、民主法律協会の権利討論集会に参加してきました。本年は全国労働組合総連合事務局長の黒澤幸一さんを講師にお招きして「『たたかう労働組合』が本流となることを目指して」というテーマで記念講演を行っていただきました。講演自体も大変素晴らしいものだったのですが、今回は、黒澤さんが講演中に紹介しておられた、新憲法の施行を受けて文部省が昭和23年に刊行した中高生向けの「民主主義」という教科書を読んでの感想を述べたいと思います。

私が本書を手に取ろうと思ったのは、昨今の政治について民主主義的でないという批判を耳にするものの、そもそも民主主義とはどういうものか、自分自身としても漠としていて捉えどころがないように感じていたためです。

本書では、民主主義とは単なる政治制度にとどまるものではなく、民主主義の根本とは「人間の尊重」ということに他ならないとしています。そして、民主主義の歴史や各国の制度、経済社会の中での民主主義等について平易な言葉遣いで説明しています。この挨拶文を書いている時点ではまだ読み進めている途中なのですが、中高生向けの教科書として執筆されたとは思えないほどの充実した内容で、また、現代の政治にもそのまま通用する内容となっており、これほど普遍性のあるものが戦後まもなく書かれていたことに驚かされます。

特に、本書では、人任せの政治が容易に独裁主義につながるものであること、国民が政治を自分自身の仕事と考え、自分で責任を持たなければならないということが繰り返し書かれており、戦前の日本が軍部独裁に至ってしまったことの反省に立って、敗戦後の荒れ果てた日本を民主国家として復興させようという情熱が感じられました。また、内田樹さんの解説も、この書籍の書かれた時代背景、つまり、GHQの検閲下で日本の子供たちを教化するために出版されたものであるという視座から、執筆者の本当に伝えたかったことはどういったことだったかを書かれており、大変示唆に富むものでした。

本書を読んで自分自身を振り返ると、大変反省するところが大きいです。マンション管理組合総会の議決ですら議案書を読み込んでいるとはいえませんし、国政ならばなおさら多くの課題があって、各党の政策を比較して投票することも十分にできているとはいえません。物事を判断するというのは面倒なことで、できればよくわかっている他の人に任せたいという怠惰な気持ちも否定できません。しかし、そのような他人任せの姿勢こそ本書の強く戒めるところです。社会をよくするためには、結局は、国民1人1人が良識と強い責任感を持って代表者を選び、また、一度投票して任せきりにするのではなく関心を持って批判していくことしかないのだと、思いを新たにしました。

(弁護士 松村隆志)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.66」 2024.3.22発行)