1 5人兄弟の長兄A(妻子なし、親も他界)が死亡し、相続人となった兄弟のBCDE4人のうちBCが遺産を独占しているので、自分の相続分を確保したいとDから依頼を受けた。Eとは協力関係にあるという。
2 ところが、被相続人の戸籍を調査したところ驚くべき事実が判明した。戸籍上はAは祖父の妹の子として届け出られていたのである。これでは、相続人として遺産分割調停の申し立てをすることができない。EがAの死亡直前まで使用していた電気カミソリを引き取り保管していたので、その中にあった髭の断片を資料にしてDNA鑑定を行い、兄弟関係が確認された。そこで検察官を相手に兄弟関係確認の訴えを提起し判決を得た。
3 こうしてようやく遺産分割調停を申し立てることができたが、今度は、BCがA死亡直後に遺産預金から引き出した100万円の処理が争点となった。BCはAの葬儀費用に使用したと主張して領収証を提出してきた。
これに対して私は、葬儀費用は、喪主の負担であるという判例の考え方によればBCが負担すべきものであり、100万円は返還すべきあるとの反論をした。
4 しかしそうであっても、BCが遺産に戻して遺産分割をすることを同意しない場合は、従来は、別途不当利得や不法行為の訴訟を提起しなければならなかった。幸いなことに本件は令和元年7月1日以後の相続で改正相続法の適用があり、民法906条の2により、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合、当該処分された財産が遺産分割時に遺産として存するものとみなされる。同法の適用にあたって、共同相続人による処分であるときはその共同相続人(本件ではBC)の同意は不要である。本件ではDEが同意したので、無事遺産分割の手続の中で処理されることとなった。
5 予想外のことも含めいろいろと難しい遺産分割事件であった。
弁護士 田中 厚
(春告鳥第18号 2023.8.3発行)