法制審議会で「共同親権」に関する要綱案が出されました

  1. 令和6年1月30日、法制審議会において「家族法制の見直しに関する要綱案」が取りまとめられました。この要綱案は離婚後の共同親権の導入を柱とするものです。現在は、婚姻中は共同親権ですが、離婚後は夫婦のいずれか一方を親権者としなければなりません。要綱案では、協議離婚の際に単独親権と共同親権のいずれも選択できるようになり、父母間で協議が整わないときは家庭裁判所が父母の双方若しくは一方を親権者と定めることができるとし、ただ、夫婦の双方を親権者とすることにより子の利益を害する場合(一方が精神的、身体的、経済的DVを行う場合など)には単独親権としなければならないとしています。
  2. 親権とは、子の監護・教育、居所の指定、財産の管理等を行う権利であり義務です。共同親権とは、父母が別居離婚しても、双方の親が子供の養育に関わることで子の福祉が高められるという理念に基づくもので、欧米やオーストラリアで取組が進んでいます。主要国の中で共同親権を選択できないのは、日本のほかはインドやトルコのみとなっています。
  3. 共同親権の導入については、立場を問わず強い反対意見があります。その理由としては、①DVを行うなど有害な配偶者についても共同親権を認めてしまい、監護親や子の安全を損なう恐れが強いこと、②進学先などで父母の意見が対立した場合に親権の行使が円滑に行えず、子に不利益となること等が挙げられます。
  4. たしかに、夫婦関係が破綻して離婚する場合には、感情的な対立が大きいことも多く、子どものことについてだけ冷静に話し合って親権を行使することが難しいというのはよくわかります。DVについても、深刻な被害を受けておられる方も多くいらっしゃることからすれば、当然の懸念であると思います。 
  5. しかし、離婚する父母でもDVが問題となっているのはごく一部であるにもかかわらず、それ以外の場合についても、これまで非監護親は、月1回の面会交流が認められるほかは子どもとの交流が持てない場合がほとんどでした。それによる非監護親の喪失感は想像するに余りあります。共同親権が認められ、離婚後も非監護親との交流が維持されることは、多くの場合子どもの利益にかなうのではないかと思います。ただ、「夫婦間で対立が強い場合でも非監護親のかかわりが続くことが子の利益となるかどうか」は理念的・感覚的なもので、明確な根拠があるものではないため、この点の評価が、賛成派・反対派を分ける要因になっているのではないかと感じます。
  6. いずれにせよ、家族の形を大きく変えることにもつながるため、慎重な議論が必要です。また、共同親権を導入する場合、共同親権を認めることが子の福祉に反しないかの判断や、親権の行使について父母の方針が対立した場合の判断など、今後、家庭裁判所の役割は一層大きくなることから、家庭裁判所が十分に調査・判断の役割を果たせるよう、十分な予算的・人員的措置が必要だと思います。

(弁護士 松村 隆志)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.65」 2024.2.7発行)