地上げ屋を雇った社長に賠償命令

 天王寺バイパスを南に下ったところにポツンと残っている古い長屋の一部に、Oさん(60歳)が 一人でタバコ屋をして生活しています。 かつてこの一帯は20件くらいの家屋がありましたが、昭和62年、すぐそばの会社の社長が地上げ業者に地上げを依頼し、約10名の地上げ屋集団が約半年間にわたって激しい地上げを行いました。次々と周りの人々が立ち退いて行くなかで、Oさんは「野良犬や虫けらのように追い出されてたまるか」と頑張りぬきました。地上げ屋のうち3人は暴力行為で有罪の判決を受けましたが、Oさんは自律神経失調症にかかってしまいました。

 そんなOさんに対して社長は建物明渡の裁判を起こしてきたのです。依頼を受けた私とZ弁護士は、逆に社長と地上げ屋4人に対して損害賠償請求の裁判を起こして頑張りました。地上げ屋は全員責任を認めて和解に応じましたが、社長は「地上げをするとは思わなかった」と主張して争ってきました。

 そして11月18日、Oさんの全面勝訴の判決が出ました。「社長はOさんに対して謝料や休業補償など394万円を支払え。明渡請求は認めない」というものでした(大阪地裁平成2年11月18日判決)。この判決はマスコミでも大きく取り上げられました。Oさんも一緒に頑張ってきた私たちも、喜びはひとしおです。ただ、地上げの始まったときに相談に来てくれていたら、Oさんの苦労はもっ と少なくて済んだのではないかと悔やまれます。

 権利を守ることは大変ですが、それが認められてはじめて法治国家といえるでしょう。権利を守ろうとする人たちの代理人、弁護人となって共に戦う弁護士の責任を改めて痛感します。借地借家法が改悪されたことも口実にして、これからも地上げは後を絶たないと考えられます。皆さんと力を合わせて「平穏に生活する権利」を守って行きたいと思います。

弁護士 岩城 穣(「天王寺法律事務所ニュース」第44号、1992年1月1日発行)