外資系医療機器メーカー社員の自死に業務起因性を認めた事例

1 事案の概要

 X氏は外資系医療機器メーカーに在席し、営業業務を担当していましたが、平成31(2019)年4月24日、自宅にて縊死しているところを発見されました(当時55歳)。

 X氏は同年1月、当時54才で転勤を命じられ、同年2月には心身の不調のため、通院を開始していました。

 X氏は生前、転勤の命を受けたことにより、新しい営業地域を任され、新たな地で一から人間関係を構築していかなければならなくなりました。また、新しく任された営業地域が、自宅から毎日通うには遠すぎたため、平日の月曜から木曜日までは自宅に帰らず、営業先の医療機関近辺のホテルに連日宿泊し、金曜日の夕方に社用車を運転してようやく自宅に帰り、月曜早朝にはまた社用車を運転して営業担当地域に向かい、ホテルに連泊しながら業務に従事するという生活を送らなければなりませんでした。

2 証拠保全、労災申請と業務上認定

 私たちはX氏のご遺族から依頼を受け、同年10月23日に東京地方裁判所に証拠保全の申立てを行い、同年12月7日に裁判官等と共に会社に臨場し証拠保全を実施するとともに、その日のうちに、東京にある中央労基署に赴き、労災申請を行いました。

 令和4(2022)年3月25日、業務上の決定が出されました。労基署の認定理由は、発病前6か月に時間外労働時間数が前月より20時間以上増加し1か月あたり80時間以上になる月もあったこと及びそれに転勤による心理的負荷が重なったことから、心理的負荷の程度が「強」に該当するというものでした。

3 労働時間管理の問題点

 X氏の上記のような働き方からも明らかなとおり、この会社にはX氏が出社する会社や事業所のようなところがあるわけでもなく、タイムカードもなく、デスクトップパソコンもありません。基本的にはX氏が自己申告する方法によってしか、労働時間が管理されていませんでした。したがって、X氏が持ち歩いていたノートパソコンのログや、X氏の会社サーバーへのアクセスログが、真の労働時間の把握のために重要でしたが、証拠保全まで行ったものの、保管期間経過等により消去されている等の理由から、一部しか提出してもらえず、労働時間の計算が本件では困難でした。しかし、会社から提供を受けた、X氏が用いていた社用車のETCの記録(通過したインターチェンジ等の場所と課金時刻が記載されているもの。)を頼りに、労働時間の算出を試みました。

 今後、固定した事業所をもたないで、インターネットを介したやりとりで会社の業務に従事する働き方が、増えていくかもしれません。これまでの会社での働き方のイメージに拘泥することなく、業務の内容・形式によっては、インターネット上のサーバーへのアクセスログを労働時間にかかる情報として積極的に活用し、労働時間管理を行うなど、実態に忠実な労働時間管理が望まれます。(担当弁護士は弊所の岩城弁護士と私のほか、林裕悟弁護士)

弁護士 安田 知央

(春告鳥第17号 2023.1.1発行)