2012年4月17日
◆画期的な仮処分決定
No.43(2011年8月24日)に書いた事案で、排泄障害を持ったバス運転手のAさん(43歳)に対して、長年行ってきた勤務配慮を打ち切った阪神バス株式会社に対し、神戸地裁尼崎支部は、本年4月9日付けで、次のような仮処分命令を行った。
①出勤時刻が午後1時以降となる勤務を担当させること。
②原則として、前日の勤務終了から翌日の勤務開始までの感覚を14時間空けること。
③原則として、時間外勤務とならない勤務を担当させること。
◆これまでの経過の概略
この件の経過は、次のようなものである。
①2011年1月1日 Aさんへの勤務配慮を打ち切り、通常勤務シフト(不規則、長時間拘束を含む)に戻す。その結果、当日欠勤が激増。
② 3月4日 仮処分命令申立
③ 8月8日 和解成立(勤務配慮を本年3月末まで延長)
④ 8月26日 本訴提起
⑤2012年2月7日 再度の仮処分命令申立
⑥ 4月1日 Aさんを通常勤務シフトに戻す
⑦ 4月9日 仮処分決定
◆仮処分決定のポイント
上記のように、まだ本訴が係属中であり、仮処分決定は最終的な解決ではない。
しかし、決定が次のように述べていることは、裁判所の一般的な判断を示すものであり、大変意味のあることと思われる。
「身体障害者に対し適切な配慮を行うことは、厚生労働省の障害者雇用対策基本方針においても求められており、障害者に対し、必要な勤務配慮を合理的理由なく行わないことは、法の下の平等(憲法14条)の趣旨に反するものとして公序良俗(民法90条)ないし信義則(同法1条2項)に反する場合があり得ると解される。
すなわち、4者合意が債権者に対して規範的効力を有するとしても、そのまま勤務配慮を廃止することが、公序良俗又は信義則に反する可能性があり得るから、この点について検討する。」
「勤務配慮を行わないことが公序良俗又は信義則に反するか否かについては、①勤務配慮を行う必要性及び相当性と、②これを行うことによる債務者に対する負担の程度とを総合的に考慮して判断をする。」
(①について)「債権者(注、Aさんのこと)が求める勤務配慮については、その必要性が一応認められる。そして、排便のコントロールが困難であるという債権者の症状と、その職務がバスの運転であり、乗客はもとより他の車両に乗車した者や歩行者等も含めた生命・身体等の安全の確保が強く求められるものであることに鑑みれば、上記配慮をすべき必要性は強いものといえる。」
(②について)「債務者の事業規模に加え、債権者が所属する尼崎営業所に在籍する運転士数が平成24年3月時点で194名あり、実際に債権者が担当する運番を当日になって欠勤した場合に、4名の運転士によりバスの運行に支障の生じないような乗務分担の変更ができたこと‥‥も考慮すれば、債権者に対する勤務配慮が、債務者にとって過度の負担となっていないことも一応認められる。
「これらの事情を総合的に考慮すれば、債権者に対する勤務配慮を行わないことが公序良俗ないし信義則に反するとする債権者の主張は、一応認められる。」
◆マスコミ報道
この仮処分決定について、いくつかの新聞・テレビで報道がなされた。
(共同通信 2012年4月16日)
神戸地裁が障害配慮の勤務シフト命じる
阪神バス(兵庫県尼崎市)に勤務する障害のある男性運転手(43)が、障害に配慮した勤務シフトを打ち切らないよう仮処分申請し、神戸地裁尼崎支部(揖斐潔裁判長)が運転手の申し立てを認める決定をしていたことが16日、代理人弁護士への取材で分かった。決定は9日付。
決定書は、男性の勤務を正午以降とすること、前日の勤務と翌日の勤務を14時間空けることなどを命じている。
男性は1997年に受けた手術の後遺症で自由に排せつができない障害がある。午前を強制的な排せつの時間に充てるため、午後遅い時間からの勤務シフトに固定することを認められていたが、2011年1月から配慮がなくなり、男性は欠勤が相次いだ。
運転手はシフト継続の仮処分を同支部に申請、昨年8月の暫定的和解でシフトの配慮が認められたが、ことし3月末までの期限付きだったため、永続的な配慮を求め昨年8月に提訴、ことし2月に仮処分も申請した。
代理人の岩城穣弁護士は「障害がありながら働いている人に対して合理的な配慮をするのが潮流」とし、阪神バスは「係争中でありコメントを差し控える」としている。(共同)
(ABCニュース:関西 2012/04/16)
<兵庫>「バス運転手の障害に配慮を」仮処分決定
体に障害のある阪神バスの運転手が、「障害に配慮した勤務シフトを打ち切らないでほしい」と求めていた裁判で、裁判所が運転手の主張を認める仮処分決定を出していたことがわかりました。運転手は、「(主張を)一部でも認めてもらったことは大変うれしい」と話しています。
阪神バスの男性運転手(43)は、手術の後遺症で排便がスムーズにできない障害があるため、およそ10年にわたり「午後の乗務に固定する」などの勤務配慮を受けてきました。しかし、会社は運転手不足などを理由に、男性への配慮を打ち切る方針を示し、今月から男性を通常勤務に戻しました。一方、男性は会社を相手にこれまで通りの配慮を求める仮処分を申し立てていました。裁判所は先週、「バスの安全運行の観点からも勤務配慮はすべきだ」と指摘。男性の申し立てを仮に認める決定を出しました。運転手は、「ちょっと(勤務)時間をずらしてもらうだけで、運転は支障なくできる」と述べています。仮処分決定を受けて阪神バスは、男性の勤務についての配慮を元通りに復活させたということです。
引き続き、本訴でも勝訴できるよう、頑張っていきたい。
<「いわき弁護士のはばかり日記」No.68(2012年4月17日)より>
※本件に関する記事は、以下のとおりです。
①障害者への配慮は「温情」か
②障害者への勤務配慮打ち切りに仮処分命令(このページ)
③障害者に勤務配慮の継続を命令する判決!
④障害者への勤務配慮打ち切り(阪神バス)事件、大阪高裁で和解成立