◆2024年4月1日から運送業、建設業、医師の3つの業種で、これまで5年間適用が猶予されてきた時間外労働の上限規制が始まりました。①運送業のトラックやバス、タクシーのドライバーは時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間となりますが、特別な事情がある場合は上限960時間以内となります。②建設業の現場でも、災害復旧などの場合を除いて、他の業界と同様に月45時間、年360時間となりますが、特別な事情がある場合は年720時間以内となります。③医師は、休日労働を含めて上限年960時間となりますが、地域の医療提供体制の確保などやむを得ない場合は年1860時間まで許容されます。
これらによる物流の停滞や地域医療への影響などの「2024年問題」に対する社会の対応も模索が始まっています。
◆2024年は、3年に一度の過労死防止対策大綱の見直しの年で、1月23日、3月19日、6月4日の3回にわたって、私も委員となっている過労死等防止対策推進協議会で見直しの議論が行われ、大綱の改定案が作成されました。1か月間のパブリックコメント(意見募集)を経て、7月下旬に閣議決定され公表される予定です。見直しの主なポイントは、①フリーランスが過度な労働時間を強いられないよう発注者側に期日設定の配慮をさせる施策などの推進、②4月から建設業、ドライバー、医師にも適用される時間外労働の上限規制の順守を徹底、③勤務間インターバル制度の導入企業を15%以上にする目標の達成時期を3年後ろ倒しして「28年まで」とする、④過労死防止の調査を重点的に行う業種に「芸術・芸能分野」を追加、⑤繰り返し過労死を発生させた企業に対し、改善計画の作成を求めるなど指導を強化、といった点です。
◆6月28日、厚労省は令和5年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。脳・心臓疾患の労災請求件数は1023件、労災認定件数は214件で、いずれも4年ぶりに増加、精神障害の労災請求件数は3575件、認定件数は883件と、これも大幅に増加しました。脳・心臓疾患の認定件数では、50代・60代以上が約7割を占め、精神疾患の認定件数ではパワハラ、セクハラ、カスハラ(カスタマーハラスメント)が合計312件と全体の35%を占めています。もっとも、認定基準に当てはまらないとして労災と認められない事案も依然として多い状況です。
弁護士 岩城 穣
(春告鳥20号 2024.8.3発行)