岡口基一裁判官(修習46期)がツイッターで「不適切ツイート」をしたとして、所属する東京高裁の林道晴長官が最高裁に懲戒請求が申し立てていた件で、10月17日、最高裁大法廷は14名の全員一致(元東京高裁長官の戸倉三郎裁判官は、過去に岡口裁判官を厳重注意処分にしたことがあったため、合議体から外れました。)で「戒告処分」を決定しました。
岡口裁判官は、自らの「ブリーフ姿」をネットにアップするなどかねてから話題性のあった人ですが、今回問題とされた投稿は「不適切」とまでいえず、このようなSNS投稿に対して「戒告処分」を行うことは、裁判官の市民的自由の行使を不当に制約し、「もの言わぬ裁判官」をますます増やすことになると懸念されます。首都大学東京の木村草太教授も、次のように述べています(沖縄タイムス2018年9月16日付け)。
「なぜ、高裁はこれほどひどい申し立てをしたのか。高裁は、過去にも、岡口判事のツイッターへの投稿に注意を出してきた。また、岡口判事は、申し立てに先立ち、林長官から、ツイッターを止めないなら分限裁判にかけて判事を辞めさせる、と脅されたと主張している。それが事実なら、今回の申し立ては、犬の飼い主の感情の保護ではなく、岡口判事のツイッターを止めさせるためのハラスメントだと理解すべきではないか。
もちろん、職務上の秘密を暴露したり、訴訟当事者の名誉を毀損(きそん)したりした判事には、懲戒処分が必要だ。しかし、今回のツイートにそうした悪質性はない。むしろ、さしたる根拠もなく、ツイッターを全てやめさせるためにハラスメントをしたとすれば、表現の自由の侵害だ。
判事も一人の個人であり、人権がある。表現の自由を侵害する脅迫や懲戒申し立てことこそが、裁判官の「品位を辱める行状」ではないか。今回、懲戒処分を受けるべきは、岡口判事ではなく、林長官ではないだろうか。」
最近、「政権の意向の忖度」の風潮が強まる中で、原発再稼働や沖縄の米軍基地の辺野古移転など政治的対立の激しい事件をはじめ、過労死事件などでも「国べったり」の判決が相次いでいます。今求められているのは、自らを社会から隔絶し、「公正らしさ」を装いながら社会的強者に媚びる官僚的裁判官ではなく、市民感覚を大切にし、弱者の声にも公平に耳を傾ける「市民的裁判官」ではないでしょうか。
(弁護士 岩城 穣)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.6」 2018.10.31発行)