みなさまは「リロケーション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
リロケーションとは、転勤や海外赴任などで一時的に空き家になる住宅を業者が借り、業者が入居者を探して転貸借契約を結んで、入居者から転貸賃料を得るサービスで、近年人気が高まっているそうです。しかし、全国の消費生活センターには「必要な原状回復費用も支払われない。」などといったリロケーションをめぐるトラブルの相談が数年前から寄せられているようです。
今回弊所にご相談に来られたNさんも、最初は原状回復を問題としていました。ところが、契約内容を確認したり、色々と話を聞いたりするうち、さらに深い問題に気づかされました。
リロケーションでは直接業者が実際の「借り手」になって、入居者は「転貸人」になるというところが、単に入居者を探す仲介等をする通常の不動産仲介業者とは異なる特徴です。こうした特徴はいわゆる不動産サブリースと共通する部分があります。通常の不動産仲介業者に対しては、宅地建物取引業法(いわゆる「宅建業法」)などの法律で様々な規制がされ、重要事項の説明の義務付けや報酬の上限規制など、不動産取引に関する知識のない人が窮地に立たされないよう配慮されてきました。ところがサブリースやリロケーションの場合は、いったん業者自らが直接の「借り手」となるために、宅建業法が単純には適用されないのではないか等と指摘されていました。
Nさん(貸主)の場合も、業者からきちんとした契約内容の説明を受けませんでした。Nさんは部屋を短期で貸し出すことを断る内容で申し込んだのに、実際の契約は入居者の解約はいつでも自由という内容になっており、入居者はたった4か月で自宅購入を理由に退去しました。入居者の解約はいつでも自由という契約内容について業者からは何の説明もありませんでした。その他にも、退去後の部屋には多くの傷が残されていたにもかかわらず、支払われた原状回復費用は2万円弱にすぎないなど、多くの問題がありました。
Nさんは同じ被害をなくしたいという思いから、本件につき提訴することを決意しました(令和2年3月30日大阪地裁に提訴)。なお、国土交通省は、リロケーションやサブリースなど住宅の転貸を規制する新法案を今回の国会に提出しています。
令和2年3月18日水曜日の毎日新聞朝刊にて、本件が報道されました。拡がりをみせるリロケーションに潜む消費者問題的側面もきちんと認知されるようになればいいなと思います。
弁護士 安田 知央
(春告鳥第12号 2020.8.3発行)