世界的に有名な楽器会社のヤマハは、音楽教室だけでなく、全国約1200の英語教室を開いています。ヤマハ系列の「ヤマハミュージックジャパン(YMJ)」が全国各地の楽器店と業務委託契約を締結し、YMJに所属する講師が同社の教材・カリキュラムに従って生徒たちに教えているのです。
問題は、講師たちとYMJの契約は雇用契約でなく、「委任契約」とされていることです。講師たちに裁量権は全くないばかりか、給与所得者として源泉徴収までされているのに、残業代も有給休暇も退職金もなく、労災保険も雇用保険もありません(左図参照)。イベントなど無償のサービス労働も多く、時期によっては時給計算をすると最低賃金を下回ります。
あるとき講師の一人が大阪労働局に行って相談したところ、「委任契約書」を見た担当者から「あなたは労働者ではありません」と言われ、門前払いされたとのことです。
2018年7月、講師の一人が森岡孝二先生(関西大学名誉教授で、当事務所の「ゆうあい会」の会長を務めてくださっていました。)に相談しましたが、直後に森岡先生が急逝されたことから、私と清水亮宏弁護士、NPO法人働き方ASU-NETの川西玲子さんが相談に乗ることとなり、2回の勉強会を経て、同年12月6日、14人の講師たちが労働組合「ヤマハ英語講師ユニオン」を結成しました。
ユニオンは結成後、①講師たちの雇用化を実現することと、②劣悪な労働条件を改善することを求めて、これまで十数回にわたり粘り強く団体交渉を重ねてきましたが、今年に入ってから、ついに会社から、来年7月をめどに雇用化を導入する方針が示されたのです。
折しも、新型コロナ感染対策として会社の指示で英語教室は2か月以上にわたって休講となりましたが、会社からは4月に「2月分の報酬の20%のお見舞金」が1回支払われただけでした。これだけを見ても、いかに講師たちの地位が不安定であったかがわかります。
本年6月にマスコミがユニオンのことを大きく報道してくれたこともあって、組合員は当初から10倍以上の160人近くまで増えました。組合員のいる都道府県は38に及びます。
労働組合の加入率が減少を続けるなか、「私たちは労働者です」を合言葉に講師たちが力を合わせて組合を作り、元気に取り組みを進めているのはすばらしいことだと思います。皆さまのご支援を、よろしくお願いします。
弁護士 岩城 穣
(春告鳥第12号 2020.8.3発行)