「紹介予定派遣」であれば「パワハラ+直接雇用拒否」は許されるのか

1 保健師の資格を持ち、別々の会社で正社員として産業保健師の仕事をしていたAさん(30代女性)とBさん(20代女性)は、それぞれの事情から転職を考え、派遣会社であるP社に登録をしたところ、2018年4月から、ゲームソフトで有名な任天堂(株)(以下「N社」という。)に紹介予定派遣されることになりました。

2 紹介予定派遣とは、職業紹介と労働者派遣がセットになったもので、派遣期間(最大6か月)終了後に、派遣労働者と派遣先会社が双方合意すれば直接雇用契約を締結することを前提とした労働者派遣です。労働者派遣とはいえ実質的に試採用に近く、派遣期間は試用期間に近いといえますが、あくまで派遣期間中は派遣会社の社員であり、派遣先会社が紹介する形で採用を決定するという点で、一般の直接雇用と異なります。

3 労働者派遣という形式をとる以上、派遣元が採用決定をするはずなのですが、本件では最初からP社の立ち会いなしにN社の採用担当者が通常と同様の面接を行うなど、派遣元のN社が実質的な採用決定を行いました。就労開始後、2人は同社の統括産業医(嘱託)であるF医師の指示を受けて業務を行っていました。

4 ところが、同年6月、ちょっとした行き違いをきっかけに、F医師は態度を一変させ、2人に対して①これまで担当していた業務から外し、②業務経験が十分にあったにもかかわらず単純業務であるカルテ整理以外の業務をさせず、③話しかけても無視するというパワーハラスメントを行うようになりました。2人はN社の人事部に相談しましたが、F医師に対する指導は行われず放置されました。

 そして、同年9月、2人はN社の人事担当者から、勤務態度や能力には何も問題がなかったとしたうえで、「産業医と円滑な協力体制が構築できなかったため」として、契約終了を告げられたのです。

5 これに納得できない2人から相談を受けた私は、派遣問題に関心のある弁護士らと弁護団を結成し、2020年9月8日、N社とF医師を被告として①労働者としての地位の確認、②賃金又は賃金相当損害金の支払い、③F医師がパワハラを行い、N社がこれを放置したことに対する慰謝料の支払いを求めて、京都地裁に提訴しました。

6 訴状で、私たち弁護団は、 (1) 派遣先であるN社が実質的な採用決定を行っていることから、N社と原告らの間に黙示の労働契約が成立したから、直接雇用を拒否したことは解雇に該当する (2) 仮にそうでなくても、原告らには直接雇用されることについて合理的な期待が生じているから、不当な理由による直接雇用拒否は許されず、その結果、N社と原告らの間に雇用契約が成立する と主張しています。

7 紹介予定派遣制度は、導入当初、正規雇用を促進するための制度と言われていましたが、本件のように労働者の不利に運用されている実態があります。本裁判は、紹介予定派遣制度のあり方を問い、同制度を悪用した不当な労働者の切り捨てを防ぐ重要な意義があります。

8 紹介予定派遣における不当な直接雇用拒否を争う訴訟は全国初ということで、提訴後の記者会見には多数のテレビ・新聞が参加し、幅広く報道されました。

 たまたま同時期にN社に採用された2人ですが、結束して理不尽なパワハラ・直接雇用拒否と闘う姿勢に、私たち弁護団も励まされています。(弁護団は、冨田真平、佐久間ひろみ、足立敦史と私の4人に、その後大ベテランの豊川義明、中村和雄の二人が加わりました。)

弁護士 岩城 穣

(春告鳥第12号 2021.1.1発行)