スーパーマーケット社員 過労自殺行政訴訟で勝訴判決

1 事案の概要

 島根県出雲市内で7店舗のスーパーマーケットを展開する会社「ウシオ」で、菓子と酒のバイヤー(商品を仕入れ、各店舗に配置し管理する責任者)をしていた高木教生(のりお)さんは、2009年9月18日、「みなさまに大変ごめいわくをかけるため退職いたします。大変申し訳ございませんでした」との辞表を社長の机の上に残して出雲市内の山中で自殺しました。

 この会社では、バイヤーたちにはタイムカードによる労働時間管理がまったく行われない中で、連日深夜から翌日未明までの長時間労働が常態化していました。また、社員たちは、いったんターゲットにすると徹底的に追い詰める社長のパワハラにおびえながら日々業務をしていました。

2 労災申請不認定から行政訴訟・民事訴訟訴訟へ

 教生さんの両親は出雲労基署に労災申請を行いましたが、業務外との認定を受け、審査請求も棄却。そこで私と鳥取の高橋真一弁護士が代理人となって再審査請求を行いましたがこれも棄却。そこで2017年2月、松江地裁に遺族補償給付不支給処分の取消しを求める行政訴訟を提起し、5か月後の同年7月、会社と社長個人を被告とする民事訴訟も、同じ松江地裁に提訴しました。

 行政訴訟では、会社が被告国に補助参加し、国と一体になって争ってきました。

3 行政訴訟の争点と主張立証

 行政訴訟の争点は

 ①精神障害発症の有無と発症時期

 ②時間外労働時間数(教生さんがセキュリティの最終退出者でなかった日の終業時間をどう認定するか)

 ③社長によるパワハラの有無

の3点でした。

 ①の発症の有無と時期の点については、私たちが依頼した中谷琢医師と国が依頼した医師との間で医学意見書の応酬がなされました。

 ②・③については、2019年12月に行われた人証調べでは、原告からは、パワハラで退職したもとバイヤ2人と母の高木栄子さん、国からは当時の現職バイヤー2人、会社からは社長と当時のマネージャー(現管理本部長)及び教生さんと同期入社の副店長(当時)の計8人の尋問が、2日連続で行われました。

4 松江地裁判決

 2021年5月31日、松江地裁(三島恭子裁判長)は、①教生さんは自殺前日までに中等度うつ病を発症し、発症当日には重度うつ病を発症していた(中谷意見書を採用)、②教生さんが最終退出者でなかった日の終業時間は午後10時と認定する。そうすると教生さんは発症前6か月のすべての月で120時間以上の時間外労働をしていたことが認められ、精神障害の労災認定基準を満たすとして、原告勝訴判決を言い渡しました。この判決に対して国も会社も控訴せず、判決は確定しました。

 今後、現在係属中の民事訴訟において、会社との和解協議が開始される予定です。

5 行政訴訟勝訴まで

 大学卒業後ご両親の老後を考えて出雲市に戻ってきた親思いの青年だった教生さんが自殺した2009年9月18日は、36歳の誕生日でした。教生さんの自殺が労災と認められるまで11年8か月、労災申請から7年4か月、行政訴訟を提起してから4年3か月を要しました。ご両親の悲しみ、辛さはいかばかりだったかを考えると、胸がつぶれる思いがします。

 そんな高木さんを私に紹介してくれたのは、全国的に取り組まれた過労死防止基本法制定運動で奮闘された元浜田市議会議員の三浦一雄さんでした。三浦さんや自死遺族の皆さんの支援を受けながら、高木栄子さんは「山陰過労死を考える家族の会」を結成してその代表に就任し、悲しみを堪えながら頑張って来ました。そんなご両親の思いを知るだけに、今回の勝訴判決とその確定は、本当に嬉しいことでした。

弁護士 岩城 穣

(春告鳥第14号 2021.8.1発行)