「表現の不自由展かんさい」成功の意義

 国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」で一時中止となった企画展「表現の不自由展・その後」の出展作品を集めた展覧会「表現の不自由展かんさい」が7月16日~18日の3日間、大阪府立労働センター(エルおおさか)で開催され、満場の1300人の参加者を得て、無事盛況のうちに閉幕しました。

 主催者(実行委員会)が今年3月に施設利用の申し込みを行い、利用承認がされていたにもかかわらず、6月中旬ころから右翼団体やネット右翼が様々な妨害活動を開始する中で、6月25日、施設側が利用承認を取り消しました。

 吉村洋文大阪府知事は6月29日の記者会見で、「開催を不快に思う人がたくさんいるのも事実で、安全な施設運営に支障が生じる可能性がある。違法な活動はダメだが、抗議するなというのもおかしい」などと述べて、施設側の利用承認取消しに賛成する見解を述べました。吉村知事が所属する大阪維新の会や日本維新の会はこのような展覧会に反対する立場をとっていることから、吉村知事が施設管理者に利用承認取消しの圧力をかけた可能性も否定できません。

 日本国憲法は「表現の自由」を保障しているのだから、気に入らないイベントを批判することは自由ですが、脅迫や威力業務妨害に該当するような違法な行為まで行うことは許されません。ましてや、そのような妨害や危険を理由に使用承認を取り消してよいということになれば、表現の自由は絵に描いた餅になってしまいます。

 これに対しただちに弁護団が結成され、6月30日、利用承認取消し処分の取消しを求める行政訴訟と執行停止申立(取消しの効力を暫定的に失わせる決定を求める申し立て)を行ったところ、7月9日、大阪地裁第2民事部は執行停止決定を行いました。

 施設側は大阪高裁に「即時抗告」を行いましたが、7月15日大阪高裁第14民事部は即時抗告を棄却。施設側は同日さらに最高裁に「特別抗告」を行いましたが、最高裁(第3小法廷)は7月16日、異例のスピードでこれを棄却しました。 弁護団の機敏な申立と地裁、高裁、最高裁の迅速な対応によって、展示会開催は法的に保護されました。そして、当日は大阪府警と弁護団・市民による厳格な警備の中、企画展が成功裏に行われたのです。

 同趣旨の展示会が愛知や東京では事実上中止に追い込まれたりしている中で、大阪でこのように成功を勝ち取ったことは、市民社会の勝利といってよいと思います。

 私自身はこの取り組みに関わることができませんでしたが、主催者、弁護団、裁判所、支援者、参加者の皆さんに心から敬意を表します。

(弁護士 岩城 穣)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.39」 2021.7.30発行)