1 対象疾病について
新たに「重篤な心不全」が追加されました。この点、従来は、「心停止(心臓性突然死)」に含まれていましたが、「心停止」と「心不全」は異なる病態であることから、対象疾病として新たに追加されることとなりました。
2 業務の過重性の評価について
(1) 新たに認定基準に追加されたもの
その1:長期間の過重業務について、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化されました。
具体的には、これまで業務と発症との関連性が強いと評価されてきた発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働に至らないが、これに近い時間外労働が認められる場合には、これに加えて一定の労働時間以外の負荷が認められるときには、業務と発症との関連性が強いと評価できることが明示されました。
この点について改正前は、労働時間以外の負荷要因については「十分検討すること」とされていたに過ぎませんので、過重性評価の中に組み込まれることが明示された点は、改正認定基準の大きなポイントの1つです。
その2:労働時間以外の負荷要因として、①勤務間インターバルが短い業務、②休日のない連続勤務、③身体的負荷を伴う業務の3点が追加されました。
特に、①の点について、従来は「労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」に基づき定められた「労働時間等見直しガイドライン」により、勤務間インターバル制度の導入が事業主の努力義務であるとされていたのみで、具体的なインターバルの基準を示したものがありませんでしたが、改正認定基準においては、「おおむね11時間」という指標が示されています。
(2) 新たな整理がなされたもの
改正前からある負荷要因のうち、①不規則な勤務等②、出張の多い業務、③心理的負荷を伴う業務について、新たな整理がなされました。とりわけ③については、精神障害の認定基準の出来事評価表を参考に、具体的出来事の内容が拡充されました。
(3) 改正前の基準が維持されたもの
長時間の過重業務における労働時間の評価基準については、発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性が強いとする従前の基準が維持されています。
この点については、2021年5月に、WHO及びILOが、週55時間以上(月60時間以上)の長時間労働が虚血性心疾患及び脳卒中の大きな原因となる旨の報告を発表していたことから、基準の見直しが期待されましたが、改正には至らず残念です。
3 最後に
今回の改正で、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化された点は大きな前進であり、今後の適切な運用に期待がかかるところです。他方で、労働時間の過重性評価基準が見直されなかったことは残念であり、今後積み残された課題といえると思います。
(弁護士 井上 将宏)