手作り漬物の販売規制

 2012年、北海道にて白菜の浅漬けによる食中毒が発生し8人が死亡したことをきっかけに、令和3年6月、改正食品衛生法が施行され、「漬物製造業」が営業許可の取得の必要な業種として追加されました(食品衛生法第54条、食品衛生法施行令第35条29号)。 当該食品の事業者は、国際的な標準に合わせた食品衛生管理が義務付けられ、食品加工専用の施設を設けることとされています。

 これまで当該許可に該当する営業者に対しては、経過措置期間が適用されることになっている(政令第123号第9条)ものの、その期限が令和6年5月31日と間近に迫ってきており、漬物製造業が一律に規制されるにあたって、自宅で漬物を作って販売してきた小規模事業者などの製造現場に大きな影響が及ぶことが危惧されています。

 許可が必要となる営業を行う事業者においては、国際的な標準(HACCP(ハサップ))に沿った設備の整備が求められます。

 具体的には、従業者の手指を洗浄消毒できる流水式手洗いの設備として、水栓が洗浄後 に手指の再汚染が防止できる構造が必要となります(食品衛生法施行規則第66条の7、同規則別表第19)。

 そのため、直接手で蛇口をひねるような水栓では適合せず、レバー式やセンサー式などの蛇口の設備を整備することが必要となります。

 その他にも、複数の洗い場の設備が必要となることや、漬物製造業に個別の基準(同規則別表第20)の適用があることなども挙げられます。

 こうした法改正に伴い、漬物製造業に従事する者においては、必要に応じて、衛生設備の整備を強いられることとなります。

 とくに、漬物を自宅で手作りして各道の駅や直売所で販売している零細な高齢事業者の方々にとっては、今後漬物の販売を継続していくために必要となる衛生設備の整備にかかる費用と漬物販売による収益とのバランスを熟慮した場合に、漬物の生産を断念せざるを得ない状況も生じうることとなります。

 多種多様なお漬物が並ぶ売り場を今後目にすることができなくなるおそれがある一方で、命を守るという観点からもとても難しい問題を抱えています。こうした問題に対しては、政府が零細な事業者に対する金銭的支援を行うことなども考えられるところです。今後の動向についても注目していきたいところです。

(弁護士 村西 優画)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.67」 2024.5.2発行)