雇用調整助成金の不正受給をしてしまったらどうなる?!

 1 雇用調整助成金とは

 雇用調整助成金は、業績悪化などでやむを得ず従業員に休業させる場合にその間の給与のうち一定額を助成する制度です。売上が上がらない場合の事業主の人件費負担を助成することで雇用の維持を図ることを目的とした助成金です。この助成金は一日当たり最大8,330円の休業手当を支給してもらうことが可能になります。コロナ禍では特例措置もありました。

2 雇用調整助成金の不正受給

 故意に支給申請書に虚偽の記載を行ったり、偽りの証明を行うことは、不正受給に該当します。不正受給とは、事業主等(会社・事業主)が偽りその他不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受け、又は受けようとすることをいいます。現在社会問題になっており、当局も後述の3に述べるように公表や刑事告発など厳しい対応をしています。

 事業主等の代表者のほか、事業主等の役員、代理人、その他当該事業主等の支給申請、申請書類の作成にかかわった者が、偽りその他不正の行為をした場合には、当該事業主等が不正の行為をしたものとみなされます(厚生労働省のホームページによる)。

 従業員が休業していないのに申請する場合は不正受給の典型例として挙げられています。

 ここでいう不正受給は、故意に行われる場合をいい、過失は含まれませんので、故意か否かが分かれ目になります。しかし、従業員が事業主等に隠れて出勤してタイムカードを打刻していなかった場合などを除き、申請が事実と異なる場合に故意を否定するのは困難と思われます。

3 不正受給に対するペナルティ

 不正受給に対するペナルティは、以下のとおりです(厚生労働省のホームページによる)。 (1)事業所名等の積極的な公表、予告なしの現地調査

・不正受給した事業所名を積極的に公表。

・都道府県労働局が事前予告なしの現地調査(事業所訪問、立ち入り検査)を行う。雇用保険法79条に基づく検査であり、支給決定から5年間は行う場合がある。

・不正「指南役」の氏名等も公表の対象となる場合がある。

(2)返還請求(ペナルティ付)

「不正発生日を含む期間以降の全額」+「不正受給額の2割程度」+「延滞金」の合 計額の返還請求。

(3)5年間の不支給措置 雇用調整助成金だけではなく、他の雇用関係助成金も5年間不支給措置となる。

(4)捜査機関との連携強化 都道府県労働局は、不正受給対応について都道府県警察本部との連携を強化している。 悪質な場合、捜査機関に対して刑事告発を行う。

4 公表基準について

3(1)の公表については、公表基準が定められています。

①不正受給による支給取消額及び不正を理由として不支給決定を受けた支給申請額の合計額が100万円以上の場合 ⇒公表対象。ただし、労働局の調査前に不正受給について自主申告を行い、かつ、返還命令後一か月以内に全額納付した場合であって、不正の態様・手段・組織性等から判断して、管轄労働局が特に重大又は悪質ではないと認める場合は公表しないことができる。

②不正受給による支給取消額及び不正を理由として不支給決定を受けた支給申請額の合計額が100万円未満の場合 ⇒公表対象外。ただし、不正の態様・手段、組織性等から判断して、管轄労働局が特に重大又は悪質であると認める場合は公表対象とする。

③社会保険労務士や代理人が不正に関与した場合⇒金額、返還の有無にかかわらず公表対象。

 なお、公表は、管轄都道府県労働局のホームページにおいて行われる。

5 刑事告発の基準

 刑事告発の具体的な基準は、インターネットで私が調査した限り、見つかりませんでした。刑法の詐欺罪(10年以下の懲役)に該当するという記事が散見されました。

(弁護士 田中 厚)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.68」 2024.6.5発行)