1 海外赴任者の現状
海外に赴任して働いている人の数について、明確な資料はありませんが、3か月以上の長期滞在者だけでも約70万人以上いるとされており、相当な数にのぼることは間違いありません。
2 海外赴任中の過労死・過労自殺は労災認定されるのか
日本国内の企業から海外に派遣されて業務に従事する場合、国内の会社から直接指揮監督を受ける「海外出張」の場合は労働基準法などの労働法の適用がありますが、海外の企業や現地事業の指揮監督を受ける「海外派遣」の場合は日本の労働法の適用はありません(属地主義)。
もっとも、会社が「特別加入」の手続をとっていれば、会社が決めた「給付基礎日額」による労災補償を受けることができますが、特別加入をしている人は約8万人にすぎません。
3 海外勤務の心身の負担の大きさ
海外に派遣されて働く場合、①言語や慣習の違い、②現地の人も含めた少人数のチームでの活動が多いこと、③日本にいる同僚や家族、友人とも離れ、孤独感を感じやすいことなどから心身のストレスが強く、さらに④労働時間の管理が日本で働く場合以上に不十分なことが多いことから、相当数の過労死や過労による精神疾患(自殺も含む)が発生していると考えられます。
4 労災申請ができない、又は申請しても認められにくいこと
しかし、過労死や過労による精神障害を発症しても、上記のようにそもそも特別加入していなかった場合はもちろん、特別加入していたとしても、発症前6か月間の時間外労働時間数や、心理的負荷を与えた出来事、パワーハラスメントなどが労災認定基準を満たしていることの立証は容易でなく、多くの方々が泣き寝入りをしているのが実情と思われます。
5 「海外労働連絡会」の発足と活動
タイの現地のゴミ焼却施設のプラントに派遣されわずか3か月後に27歳で自死した上田優貴さんのケースでは、会社が特別加入の手続きをとっており、母親の上田直美さんと弁護団の懸命な立証活動により2024年3月に大阪南労基署で労災認定を受けることができました(「春告鳥」2023年8月号参照)。
しかし、直美さんは、同じような辛い思いをする労働者や遺族をなくしたいとの思いから、同じく遺族の中江奈津子さん(ラオスに赴任して水力発電所建設に従事していた夫がクモ膜下出血で亡くなり、2019年3月に東京三田労基署で労災認定)とタッグを組み、他の遺族たちにも呼びかけ、①交流会の実施、②勉強会やシンポジウムの開催、③同種事案の裁判支援や法制度改正の提言、企業への是正要求などを目的として、2025年3月、「海外労働連絡会」を立ち上げました(ホームページはhttps://linjow.org/)。同会の発足は多くのマスコミに取り上げられ、既に様々な相談も寄せられています。
私も共同代表の一人として、この会の活動に協力していきたいと思います。
弁護士 岩城 穣
(春告鳥23号 2026.1.1発行)

