電話当番中の待機時間の労働時間該当性

 労働者がどれだけの時間働いていたのかは、業務の量的な過重性を示す事情として、精神疾患や脳・心臓疾患の発症が業務に起因するものか否かを判断するにあたり非常に重要です。今回は、夜間や休日などに発生する緊急事態に対応するために電話を携帯し、電話当番にあたった時間が労働時間に当たるか否かについてご説明します。
 まず、「労働時間」とは、「労働者が使用者の指揮命令下におかれている時間」とされています(ただし、これは労働基準法上の労働時間についての定義で、労災認定上の労働時間についても同じ考え方でよいかについては議論があります。)。電話当番日に電話がかかってきて、実際に緊急対応を行った場合には、その時間は労働時間に当たると考えられます。
 では、電話を携帯して待機している時間はどうでしょうか。この点、労災認定にあたっての労働時間の基本的な考え方を示した通達(令和3年通達といいます。)では、「電話当番の頻度、電話当番中の制約の程度(行動の制約の有無や拘束の度合い等)、電話に出られなかった場合の制裁の有無、緊急時の電話対応を行う頻度・対応に要する時間等を検討し、実態として使用者の指揮命令下におかれていると判断される場合には、労働時間に該当する」としています。
 例えば、十分な交代要員が確保されておらず、即時の対応が義務付けられ、待機場所が指定されている場合などで、相当の頻度で緊急対応に従事する必要がある場合には、労働から解放されているとはいえず、待機時間も労働時間に該当する可能性があります。
 他方、自宅で待機する場合には、飲酒や遠方への移動が制限されている等の一定の制約があるとしても、外出を含め自由に行動することができ、使用者の拘束の程度が小さいとされていることから、待機時間は労働時間には該当しない可能性が高いです。
 もっとも、待機時間が労働時間に当たるか否かを判断するには、上記のように様々な事情を考慮する必要があります。緊急対応を行う頻度や対応に要する時間、行動の制約の程度や制裁の有無によっては、待機時間も労働時間といえる可能性もないわけではなく、事案ごとの判断となります。

弁護士 松村 隆志
(いわき総合法律事務所メールニュース「春告鳥メール便」2025年9月25日発行)