欠陥住宅の供給に関与した者の不法行為責任について(前編)

2024年12月20日

一 私が扱った著名事件

1 事案紹介

平成9年6月に土地付き木造三階建住宅を堺市内の不動産販売業者から約3194万円で購入し、同10月に引渡を受けて居住。強風が吹くと揺れるなどの欠陥現象があった。

 平成11年2月原告は堺市から、「建築基準法の定める構造基準を満たしていないように見受けられるので、調査のうえ補修を勧める」旨の通知受領。同建物は完了検査を受けておらず、建築確認を受けた設計と異なり1階の駐車場や2階のリビングが大きく取られ耐力壁が不足した施工となっていた。

 堺市住宅相談会で相談を受け、平野憲司建築士に本件住宅について調査を依頼。①構造耐力上必要な軸組長さの不足②軸組配置の釣り合い不良③筋交い及び火打ち梁の緊結不良④布基礎のはつり⑤外壁防火性能の欠如、などの欠陥及び、現状の空間利用を損なわずに補修するには取り壊し建て替える他はないことが判明した。

 販売会社、同社の代表者、施工監理者として名義を貸した建築士、施工業者を被告として平成11年10月6日大阪地方裁判所に提訴した。

 主位的請求は、解除を前提とする代金相当額の返還及び信頼利益・鑑定費用・慰謝料・弁護士費用等合計4153万円である(提訴後審理中に追加)。
 予備的請求は、取り壊し建て替え費用・転居費用・鑑定費用・慰謝料・弁護士費用等合計2903万円である。

2 1審判決(大阪地判平12・9・27)とその問題点

 原告の主張する本件建物の瑕疵を認定した。販売業者に対する瑕疵担保責任による解除を認め、慰謝料・弁護士費用を減額した以外は全ての請求を認め3974万円の支払を命令した。

 その余の被告については、販売会社の代表者については、取引主任者として原告に対し重要事項の説明を行った際に、建築確認を受けた設計と異なる施工をしたこと及び本件瑕疵について全く告げなかったことを以て不法行為の成立を認め販売会社と連帯して同額の損害賠償を命じた。

 建築士と施工業者の不法行為責任については、「詐欺行為などがあった等特段の事情がない限り、不法行為が成立する余地はない」として否定した点が問題であった。

3 控訴審判決

(1)審理経過

 双方が控訴した大阪高裁の審理経過は、以下のとおりであった。

 当方は、1審判決の論理を打ち破るため、立命館大学松本克美教授の論文(ジュリスト1192号216頁、立命館法学271.272号)、勝訴事例(大坂地裁12.6.30、同地裁12.10.20、大阪高裁12.8.30)を提出した。
 和解協議が決裂したため、強制執行による回収の困難を踏まえて、不動産保証協会に対する弁済認証を申出た。
 結審後、判決へ進んだ。

(2)判決内容

 販売会社とその代表者に対して主的請求のうち3924万円(売買代金プラス付随的な損害)認容した。

 施工業者と名義貸監理放棄建築士には、売買契約の締結に関与していないことを理由に主位的請求を排斥したが、予備的請求のうち2588万円(取り壊し建て替え費用プラス付随的な損害)を認容する逆転勝訴判決であった。

 「1審被告Y(建築士)は、本件建物の建築確認申請書に、自らを工事監理者として記載してこれを提出し、建築確認を受けたのであるから、・・・本件建物が建築確認申請書に添付した図面と同一の建築物が建築されるように監理しなければならなかったにもかかわらず、これを怠ったため、1審被告M(施工業者)が前記図面と異なり、建築基準法に違反する本件瑕疵のある本件建物を建築したのであるから、1審被告Yの不法行為によって1審原告の財産を侵害したと認めることができる。」「なぜならば、建築基準法は、国民の生命、健康及び財産の保護を図るため、建築物の構造等に関する最低基準を定め、この基準に違反する建築物が建築されないようにするため、建築工事前に建築主事等に建築物がこれに適合するものであることの確認を受けさせ(法6条)、建築工事完了後に建築主事等にこれに適合するものであることの検査を受けさせる(法7条)のみならず、建築主に一定の資格を有する建築士を工事監理者として選任させてその工事の監理をさせることとし(法5条の4第2項)、しかも、これを実効あるものとするため、工事監理者となった建築士の氏名を建築確認申請書に記載しなければならないものとし(建築基準法施行規則1条の3第1項第2号様式(第2面)5)、建築主が工事監理者を選任せずに工事をすることはできないものとしている(法5条の4第3項)。したがって、建築確認申請書に工事監理者として記載された建築士は、建築基準法に適合した建築物が建築されるように監理をして、他人の生命、健康及び財産が侵害されないようにしなければならないのであるから、これに違反したために他人の財産が侵害され、損害を被らせたときには、工事監理者に不法行為に基づきその損害を賠償させるのが相当である。」

 但し、損害論において、「財産権が侵害された場合には、その財産的損害が賠償されれば、特段の事情のない限り、精神的損害も回復するので、慰謝料を請求することはできない」とした点には不満が残る。

(3)判決の影響

 新聞各紙で報道され、同種事件を担当している弁護士のみならず、国民生活センター、建築士会からの問い合わせがあった。堺市にも、国土交通省近畿、大阪府建築振興課、尼崎市、吹田市などから電話が入っていたと聞いている。行政担当者からは、「名義貸し」については、確認申請書への虚偽記載としてしか処分してこなかった現実があるので判決の重みはかなりある、との感想が寄せられた。

(4)判決の意義

 地裁段階で分かれていた名義貸し建築士の不法行為責任について肯定し、取り壊し建て替え費用相当額全額の損害賠償を命じた高裁レベルでは初めての判断であった。

 建築士の名義貸による監理放棄をなくし、欠陥住宅を撲滅するために、今後この方向で判例解釈が統一されることが期待された。  

(5)逆転勝訴は、関西ネット・全国ネットの協力によるもの

 関西ネットの平野建築士の鑑定、著書「3階建て木造住宅が危ない」の提出、京都ネットの松本克美教授から論文の教示、地裁レベルでの勝訴判決を関西ネットの嶋原弁護士から入手して提出、関西ネット岩城弁護士のメーリングリスト投稿を見て一部認容の大阪高裁判決を入手して提出、建設省の通達(建築士の懲戒処分基準)を京都ネットの大会で入手して提出することで、逆転勝訴判決を得ることができた。

後編に続く)

弁護士 田中 厚
 (いわき総合法律事務所メールニュース 春告鳥メール便No.73 2025/2/17発行)