映画「新聞記者」が日本アカデミー賞を総なめ!

2020年3月8日

映画の話題が続いてしまうが、3月6日、第43回日本アカデミー賞授賞式が行われ、昨年6月~7月にかけて公開された映画「新聞記者」(藤井道人監督)が優秀作品賞、優秀主演男優賞(松坂桃李)、優秀主演女優賞(シム・ウンギョン)の主要3部門を総なめにした。

 この映画は、東京新聞の記者である望月衣塑子さんの同名の本を素材に、若手女性新聞記者と内閣情報調査質の若手エリート官僚の対峙と葛藤を描いたものである。

 望月記者自身が当時(今も)安倍政権から相当バッシングされていたばかりでなく、おそらく現政権への忖度から、テレビなどではほとんど紹介されず、また宣伝・広告も目立たなかったが、ぜひ観てみたいと思い、昨年7月18日に大阪ステーションシネマで観てきた。

 主演のお二人を始めとするキャストの好演も、息もつかせぬストーリーも、素晴らしかった。

 映画自体はフィクションだが、公文書偽造に関わった官僚が自殺したり、総理のお友達のもとに莫大な学部新設利権が転がり込んだり、薄暗い部屋の中で若手官僚たちが政権に不都合なニュースをコントロールしている場面があるなど、現政権の数々の「闇」を想起させるストーリーであるうえ、映画の中のテレビの討論番組で、望月記者と元文部科学事務次官の前川喜平氏が討論している場面も入っているなど、現政権に対する批判的な視点を隠そうとしない映画であった。また、作り出された「嫌韓ブーム」の中で、ヒロイン(吉岡エリカ)に韓国人のシム・ウンギョンさんを採用したことも、思い切った決断だったと思う。

 にもかかわらず、SNSや口コミで評判が広がったこともあり、観客動員は尻上がりに増え、観客動員は40万人、興行収入5億円を突破したとのことである。

 そこに、今回の日本アカデミー賞の受賞である。

 私は、主要3部門をこの映画が総なめしたのもうれしいが、アカデミー賞に政権への忖度がなかったことが同じくらいうれしい。

 この映画でもう一人の主演(杉原拓海役)を務めた松坂桃李さんがこの役を受けるとき、迷いがなかったとしたら嘘であろう。授賞式では、ウンギョンさんは号泣し、松坂さんの目も、心なしか潤んでいるように見えた。

 先月、第92回アカデミー賞で韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が作品賞、監督賞、脚本賞などをを制覇して話題になった(私も2月22日に観てきた)。

 私は、映画について多くを語るだけの知識も経験も持ち合わせていないが、少なくとも時の政権に忖度せずに「新聞記者」を選んだ日本の映画界も、まだまだ捨てたものではないと嬉しく思う。

 これを機に、映画「新聞記者」を、もっともっと多くの人たちに観てほしいと思う。

「岩城弁護士のはばかり日記」No.354(2020年3月8日)