万博開催予定地である夢洲では、その隣にIRカジノ施設の建設が予定されています。IRカジノをめぐっては、本年11月末までに3つの住民訴訟が提起されており、12月16日には第4の住民訴訟が提起されました。
1つ目の住民訴訟は、IR用地として用いるから発生する地中障害対策費・土壌汚染対策費・液状化対策費合計788億円を、IR事業者ではなく大阪市が負担することが不当であると訴えるものです。2つ目の住民訴訟は、そのように多額の公費が投入される土地を、IR事業者に対して格安賃料(月額賃料428円/㎡、年額約25億円)で35年間にわたって貸し付けることが不当であると訴えるものです。3つ目の住民訴訟は、IR用地がIR事業者に引き渡され、IR事業者が土地整備工事を行っているにもかかわらず、その間無償で土地の使用を認めることが不当であると訴えるものです。
そしてこの度、住民側がIR用地の相当な賃料額について不動産鑑定士に鑑定を依頼した結果、少なく見積もっても年額約55億円が相当であり、格安賃料で貸し出すことによって約33年間の累計で1000億円以上の損害が発生することが明らかになりました。そこで、大阪市に対し、大阪市長やIR事業者、不動産鑑定士等を相手方として損害賠償請求することを求めるのが4つ目の住民訴訟です。
私は、2つ目の住民訴訟と4つ目の住民訴訟の弁護団に加わっているので、この2つの訴訟について簡単にご説明したいと思います。
大阪市は裁判において、月額賃料428円/㎡は、複数の不動産鑑定業者に鑑定してもらった結果決定したものであり、相当な金額だと主張しています。しかし、大阪市が根拠とする鑑定は、4社中3社の鑑定結果が月額賃料428円/㎡で一致するという余りに不自然なものです。また、各鑑定は、IR用地として貸し出す土地で、隣接地に夢洲新駅の開業も予定されているにもかかわらず、「IRを考慮外として中低層の商業施設として利用すること」、「新駅開業を考慮せずに最寄駅を咲洲のコスモスクエア駅とすること」を共通の条件として鑑定されており、そもそもIR事業に使用するための賃料の鑑定になっていません。そして、裁判中に大阪市と各鑑定業者との間のメールの存在が判明し、各鑑定業者がこのような鑑定条件を採用したことについて、大阪市側からの不当な示唆・誘導があったことが強く疑われる状況となっています。
さらに、仮に鑑定時点では「IR考慮外」「夢洲新駅考慮外」という条件設定が不当とまではいえなかったとしても、その後、令和5年9月22日には国がIR区域整備計画に係る実施協定を認可し、令和7年1月19日には夢洲駅も開業することが決まっており、鑑定時とは状況が変わっています。そうであれば、それにあわせて賃料額も増額しなければならないはずですが、令和5年9月28日、大阪市はIR事業者との間で、月額賃料428円/㎡のまま事業用定期借地権設定契約を締結してしまいました。さらに、契約では賃料改定について消費者物価の上昇分しか考慮されないことになっています。このような賃料が不当に低廉であるのは明らかではないでしょうか。
そもそもカジノを誘致すること自体、強い反対意見があります。まして、市民の財産を不当に安く貸し出して、そのような施設を誘致することなど許されるはずもありません。市民の皆様には、IRカジノの問題点に関心を持っていただきたいと思います。
(弁護士 松村 隆志)
(メールニュース「春告鳥メール便 No.72」 2024.12.20発行)