欠陥住宅で全面補修の示談解決

一 Hさんは97年3月、堺市内で木造3階建の建売住宅を約2600万円で購入した。細長い土地で1階がを車庫になっている、大阪ではよく見られる建物である。ところが、入居すると建物がひどく揺れ、またサッシの窓が完全に締まらない。売主のA社、施工業者のB社に言っても「木造3階建は揺れるものだ」と相手にされなかった。
  昨年2月、過去3年間に建築された木造3階建住宅を対象に堺市が抜き打ち調査を行い、市から「本件建物は建築基準法所定の基準を満たしていないので、構造補強をするように」との通知が送られてきた。HさんがY建築士に調査してもらったところ、1階の必要壁量が基準のわずか46%しかないことが判明した。

二 Hさんは山名邦彦弁護士(堺総合法律事務所)に相談し、山名弁護士から私に誘いがあり一緒に交渉を担当することになった。
  そして、売主のA社、施工業者のB社、仲介業者のC社、建築確認申請をしただけで施工監理を全くしなかったD建築士の四者に内容証明郵便を出し、4月中旬から月1~2回のペースで交渉を行った。詳しい構造計算や模型の作成なども含めて厳しいやり取りが続けられたが、ようやく10月20日、次のような内容の合意書が調印され示談が成立した。

 1 B社は本年12月から3ヶ月間で、建築基準法の構造基準を満たす内容の工事図書に従い、全面的な補修工事を行う。
 2 D建築士は、補修工事が工事図書のとおり行われるよう監修する。
 3 補修工事の節目を含め、随時Hさんは検査を行うことができる。
 4 A社、B社は引っ越し・仮住まい費用、弁護士費用、Y建築士の費用をすべて負担し、解決金(慰謝料)を支払うとともに、補修工事完成後10年間瑕疵担保責任を負う。
 5 C社は、補修工事が履行されなかった場合の損害賠償の一部を連帯保証する。

三 裁判を経ずに、このような全面的な解決がなされたことは画期的といえる。双方関係者の粘り強い努力の結果であるが、出発点として堺市の調査が果たした役割は極めて大きい。
  堺市はこの間、このような抜き打ち調査や、現在建築中の建物についての中間検査など、欠陥住宅をなくすために積極的な活動を進め、全国的に一躍有名になった。
  98年6月、建築基準法が改正され、地方自治体がその気になれば中間検査をどんどんできるようになった。この事例は、自治体が本気で動けば、欠陥住宅の予防と救済に大きな力を発揮することを示したといえる。
  なお、この件は、交渉途中の6月9日、NHKの「クローズアップ現代」で紹介された。

【弁護士 岩城 穣】(あべの総合法律事務所 事務所ニュース第10号 弁護士活動日誌(2000/1/1発行)