主尋問と反対尋問

 主尋問は、こちらが申請する証人や事件本人に対する法廷での尋問であり、反対尋問は、相手方の証人や事件本人に対する尋問である。いうまでもなくこれらは、裁判の勝敗を決する重要な活動であり裁判の「山場」である。

 主尋問はいわば「芸術作品」である。30分とか1時間とかの決められた時間内に、これまで把握した事件の全体像、裁判での要件事実、提出した書証との関連、予想される反対尋問に対する対策などのすべてを盛り込む。さらに、裁判官への印象、相手方へのプレッシャーまで考えながら、その人の言葉で、リアルに、かつメリハリをつけて証言してもらわなければならない。時間をかけて打合せをし、尋問事項のメモを作っても、抜けているところはないか、このような質問は必要か、依頼者の思いを裁判所に伝えられるかなどを考えながら、何度も何度も読み返す。そして法廷では、裁判官の様子もうかがいながら、書記官が調書を取りやすいように、ゆっくりと、アクセントをつけながら質問していく。

 これに対して反対尋問は、初めての対戦相手との「将棋」のようなものである。どんな相手か事前にはわからない。もっともらしく平然とウソをつくのか、意外に気が弱いのか、誘導や挑発には乗ってくるか。どんなタイプの証人かをを思いめぐらせながら、手持ちの材料や現在の形勢、責め方の順序など、あらゆる角度から尋問事項を考える。

 当日は、相手方代理人の主尋問を聞きながら、証人のタイプや弱点をいち早く把握し、反対尋問の作戦を選択し決定する。警戒心を和らげる質問をしておいて、一気に攻め込んだり、「落とし穴」を作っておいて誘導し、そこに追い込んだり、後で効いてくる可能性のある「歩」を、最初にさらりと打っておいたりもする。そして、出てきた矛盾や弱点は徹底的に突く。必要以上の深追いはせず、場合によってはサッと引く。

 主尋問も反対尋問も、チャンスは1回限り、一発勝負である。明け方までかかって十分な準備をし、法廷で思いどおりの成果が得られたときの爽快感、達成感は言葉に言い表せない。逆に、十分な準備ができなかったり、期待した成果が得られず、悔しい思いをすることもある。

 弁護団事件などで他の弁護士と一緒に活動すると、他の弁護士の尋問のやり方から学ぶことも多い。また、裁判の相手方の弁護士の尋問から学ぶこともある。

 自己満足や我流におちいらないようにしながら、もっともっと磨きをかけていかなければ、と思う。

【弁護士 岩城 穣】(いずみ第9号「弁護士活動日誌」1999/3/23発行)