なんだかモヤモヤする「レジ袋有料化」の取り組み

1 2020年7月1日から全国一斉に「レジ袋有料化」の取り組みが始まりました。思い付きでパフォーマンス的に政策を決定してしまう政権の下で始まった取り組みですが、実は、ちゃんと法令の根拠があります(当たり前ですが)。

 「容器包装にかかる分別収集及び再商品化の促進等に関する法律」(平成7年法律第112号。)という法律(以下「容リ法」という。)がそれです。この容リ法第7条の4において、「指定容器包装利用事業者」に対する容器包装廃棄物の排出抑制を促進する取り組みについて政令で定めるものとされ、これを受けた「小売り事業に属する事業を行う者の容器包装の使用の合理化による容器包装廃棄物の排出の抑制に関する判断の基準となるべき事項を定める省令」(平成18年財務省・厚生労働省・農林水産省・経済産業省令第1号)という、長ったらしい名前の政令の第2条第1項において「消費者にその用いる容器包装を有償で提供すること」と定められているのです。

 その結果、クレジットカードだけ持ってコンビニで6人分のホットコーヒーを購入し、一見して明らかに手提げ袋が必要な状況にあっても、店員さんから「袋どうしますか?」等と聞かれない限り、袋が提供されることは無くなってしまいました。不便で仕方ありません。

2 消費者に不便さと経済的負担を転嫁するやり方で始まった上記取り組みの目的は、「生活環境の保全」と「国民経済の健全な発展」だそうです(容リ法第1条)。この法の目的と運用実態との関係について、少し考えてみたいと思います。

 まず、「生活環境の保全」との関係で考えてみましょう。一般的には海洋汚染とCo2の排出による温暖化防止等が目的のように言われています。ただ、「プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン」によれば、有料化の対象となるものは、一部の例外を除き、基本的には「持ち手のついたプラスチック製の買物袋」ということになります。したがって、持ち手のないプラスチック製の袋は対象外ですし、紙袋も有料化の対象とされていません(便乗して紙袋まで有料化している事業者を時々見かけますが・・・)。しかも、有料袋の代金を環境保全活動に充てるなどの制度にはなっていません。

 ここまでのところで疑問に思うことは、次の3点です。第1に、「持ち手のついたプラスチック製の買物袋」だけを有料化することが「生活環境の保全」との間でどれほど意味があるのかということ、第2に、紙袋を作るために森林伐採が行われたり、これらを焼却する際のCo2の問題は温暖化とは関係ないことなのかということ、第3に、買物袋有料化による収益を温暖化防止や海洋汚染防止の活動費に充てる仕組みとなっていないのはなぜかということです。とりわけ、第3の点についていえば、有料化されたことによる収益が環境保全活動等に活かされるのであれば上記法令の目的にも合致する取り組みといえるでしょうが、収益については特に使途が定められておらず、純粋に事業者の売り上げとして扱われるのであれば、消費者が負担を負うだけの仕組みということになります。

 次に、海洋汚染との関係でいえば、レジ袋の無料配布を終了することと海洋汚染の低減との間にどのような関係があるか、具体的に考える必要があります。少なくとも、私の周囲には「プラスチック製買い物袋は普段川に捨ててますね。」なんて人はいません。皆さんの周りでもそうだと思います。それなのに、なぜレジ袋を有料化すると海洋汚染の防止につながるのでしょうか。有料のレジ袋を捨てる人はいない、という経験則でもあるのでしょうか。プラスチック製の個包装やペットボトルの空き容器等が打ち捨てられて海洋を汚染している現状はどの様に理解すべきでしょうか。

 「国民経済の健全な発展」についても同様です。対象事業者に対し、対象買物袋の配布を有料化することが、国民経済の健全な発展につながるというのはどういうことなのか、説得的な説明が必要なのではないでしょうか。

3 プラスチック製買い物袋の無料配布がないということは確かに不便なことですが、本当に意義のある(少なくともそう感じることができる)取り組みであれば、賛同すべきものだと思います。私自身、現時点では実効性についてとても多くの疑問を感じている取り組みではありますが、数年後に目に見える形でCo2排出量の減少や海洋汚染の改善が見られた暁には、考えを改めたいと思います。そのための備忘として、本記事を呈します。

(弁護士 井上 将宏)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.31」 2020.11.27発行)