岩城弁護士の過労死問題最前線(2023年7月~11月)

◆2023年9月1日、10年ぶりに精神障害の労災認定基準が大幅に改定されました。①「業務による心理的負荷評価表」に具体的出来事「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(カスタマーハラスメント)が追加され、心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)、②悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認めるといった点です。

 もっとも、認定要件が大きく緩和されたとまではいえず、これによって認定件数が増加するかは予断を許しません。

 ◆10月13日、「令和5年版 過労死等防止対策白書」が公表されました。今回の白書では、「睡眠と疲労、うつ傾向及び主観的幸福感などの関係」についての調査分析結果を掲載。そこでは、睡眠の不足感が大きいと疲労の持ちこし頻度が高くなり、うつ傾向・不安を悪化させ、主観的幸福感も低くなる傾向があることが示されています。なお、白書はインターネットで閲覧・ダウンロードできます。

 ◆11月14日、第25回過労死等防止対策推進協議会が開かれ、20人の委員の多くが過労死防止について意見を述べました。私は、①人手不足もあり働く高齢者が増えているなか、高齢になること自体による身体・精神への影響について調査・研究を行うべきではないか。②労働時間の認定は、疲労の蓄積や他の負荷要因との相乗作用といった点から実情に即して認定される必要があるが、労働時間の認定について厚労省が令和3年3月30日の通達で出している「質疑応答集」は、全体として労働時間を過少に認定するものになっている。その後脳・心臓疾患、精神障害の認定基準が改定されたこと、今回の過労死白書で睡眠の重要性が指摘されていることも踏まえ、これを見直す予定はないか、の2点を質問しました。

 厚労省の担当者からは、①について特に回答はなく、②については、この質疑応答集はさほど厳格なものではなく、また随時見直していく予定であるとの回答でした。

弁護士 岩城 穣

(春告鳥第19号 2024.1.1発行)