日本被団協のノーベル平和賞受賞を心から祝福します

2024年11月8日

 2024年10月11日、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)がノーベル平和賞を受賞しました。被爆者の方々のこれまでの活動に敬意を表し、また、受賞を心から祝福し、歓迎します。
日本被団協は、1954年のビキニ水爆実験による第五福竜丸の被災を契機とした原水爆禁止運動の高まりを背景に、1956年8月10日、長崎で開かれた第2回原水爆禁止世界大会の中で結成された団体です。日本被団協の結成宣言には、次のようにあります。

 「原爆から11年あまりたった今になって、私たちは、はじめてこのように全国から集まることができました。あの瞬間に死ななかった私たちが今やっと立ち上がって集まった最初の全国大会なのでございます。今日までだまって、うつむいて、わかれわかれに、生き残ってきた私たちが、もうだまっておれないでてをつないで立ち上がろうとして集まった大会なのでございます。」
 「私たちは今日ここに声を合わせて高らかに全世界に訴えます。人類は私たちの犠牲と苦難をまたふたたび繰り返してはなりません。破壊と死滅の方向に行くおそれのある原子力を決定的に人類の幸福と繁栄との方向に向わせるということこそが、私たちの生きる限りの唯一の願いであります。」

 結成宣言で示された被爆者の方々の心からの訴えは、宣言が出されてから68年が経過した現在でも強く心を揺り動かし、色褪せるどころか一層重要なメッセージを世界に訴えかけています。

 ノルウェー・ノーベル平和委員会は、授賞理由として、広島と長崎の原子力爆弾の生存者たちによる草の根運動が、核兵器のない世界の実現に尽力し、核兵器が二度と使われてはならないことを証言を通じて示してきたこと、日本被団協やその他の被爆者の代表者らによる並外れた努力が、核のタブーの確立に大きく貢献したことなどを挙げています。被爆者の方々のこれまでの証言と運動を高く評価するものであり、心から歓迎します。

 他方、日本被団協がノーベル平和賞を受賞した背景には、核兵器が使用される懸念がかつてないほどに高まっていることがあります。授賞理由の中でも、核保有国が核兵器の近代化と改良を進め、新たな国々が核兵器の保有を準備しているように見えること、現在起きている紛争では、核兵器使用が脅しに使われていることに警鐘を鳴らしています。

 日本も批准する核兵器不拡散条約(1968年7月1日署名開放)第6条では、核保有国を含めた締約国に核軍縮条約について誠実に交渉することを義務付けていますが、その後50年間、核軍縮・核廃絶に向けた取り組みは停滞したままです。そのような中で、核兵器の非人道性と使用のリスクへの危機意識が広がり、2017年7月、核兵器禁止条約が国連総会で採択されました。核兵器を包括的に禁止することは、核廃絶に向けた不可欠の一歩であり、核兵器不拡散条約を補強するものと言えます。

 日本政府は、核抑止論に依拠してアメリカの核の傘に依存し、核兵器禁止条約にも署名・批准していませんが、広島と長崎に原爆を投下され、核兵器使用の悲惨さを体験した日本こそ、本来核兵器廃絶に向けて率先して取り組まなければならないはずです。日本政府には、被爆者の方々の心からの訴えに耳を傾け、核兵器のない世界に向けて誠実に取り組むことを強く求めます。

弁護士 松村隆志
 (いわき総合法律事務所メールニュース 春告鳥メール便No.71 2024/11/8発行)