右の標題は、昨年アメリカの「シカゴ・トリビューン」 という新聞が日本の過労死事件を取り上げた記事の見出しである。この記事を読むと、現在の日本人の「働き過ぎ」がいかに非人間的なものか、国際的に異常なものかを思い知らされる。
私は昨年来マスコミで大きく取り上げられた「過労死110番」運動に関わっている弁護団の一人であるが、1年半の間に大阪だけで200件以上の相談があった。ほとんどが死亡のケースである。
そう、人間は長時間、不規則労働やストレスが重なると死ぬのである。当の本人はまさか自分が死ぬとは思っていなかったであろうし、死ぬとわかっていたらそこまで働かなかったであろう。残された家族はある日突然奈落の底へ突き落されるのである。みんな文字通り「死ぬほど」仕事が好きだったわけではない。原因は社会のしくみにある。大企業の徹底した人べらし、賃金抑制、下請け間の競争、ますます高額化する家賃・住宅ローン、物価、教育費、長時間通勤、福祉の貧国の中での老後への不安‥‥。
本当は、「働きすぎ社会」ではなく、「働かされすぎ社会」なのだ。
これを変えるのは簡単ではない。しかし、何よりも自分の健康を大切にしてほしい。 そして、職場、社会を少しずつ変えていこう。
過労死を労災と認めさせても、命は還らない。だが、残された家族の生活に少しでも役立られると共に、「働かされすぎ社会」を少しでも変えるきっかけになるのではないか。そんな悔しい思いで労災申請に取り組んでいる。
弁護士 岩城 穣(「天王寺法律事務所ニュース」 1989年11月15日発行)