2020年8月3日
暑中お見舞い申し上げます。
「私たち一人ひとりは微力だが、決して無力ではありません」。これは、核廃絶を訴え続ける長崎の高校生たちの合言葉だそうです。地道に社会運動に取り組む人たちにとって希望を与える言葉です。
しかし、現代の社会においては、2つの意味で注意が必要だと思います。一つは、一人ひとりは、決して「微力」にとどまらず、良い方向にも悪い方向にも「大きな力」を発揮できるということです。黒人差別反対の抗議活動はアメリカやヨーロッパを揺るがしていますし、日本でも政権の自己保身のための検察庁法改正案に対して1000万人もの人たちがツイッターで声を上げたことで法案は廃案となりました。他方でイベント主催者への抗議電話の集中(「電凸」などといわれます)によってイベントが中止に追い込まれたり、SNSでの安易な集中攻撃によって若い女性プロレスラーが自殺に追い込まれるなどしています。
もう一つは、市民は「微力」を集めて政治の腐敗や権力の横暴を批判することができますが、政治や権力の側も、その経済力や権力を使って暴力的・謀略的に世論を組織しようとするということです。沖縄での辺野古基地建設の強行や、香港での市民・学生に対する中国政府の対応を見るとそのことを実感します。古くは第二次世界大戦も太平洋戦争も、民衆の熱狂によるファシズムが引き起こした側面があることを忘れてはなりません。
私たち市民は「微力」どころか大きな「力」を持っていて、社会を変革することができるが、時には人や国を亡ぼすこともある。この「力」を正しく発揮するには、私たち自身が謙虚に学び、交流し合いながら積極的に行動していくことが決定的に重要ではないでしょうか。
コロナ対策も含め、皆さま例年以上にご自愛ください。
(弁護士 岩城 穣)
(春告鳥第12号 2020.8.3発行)