性別変更要件の合憲性

 性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには、性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律第3条の定めを満たさなければなりません。その中には「生殖腺(せん)がないこと又は生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」という要件があります。要するに事実上、性同一性障害の人が戸籍上の性別を変更するには、生殖腺やその機能をなくすための「手術」を行わなければなりません。

 当該要件が合憲かどうかにつき争われた家事審判に関し、最高裁判所は、昨年12月、15人の裁判官全員による大法廷で判断することを決めました。最高裁は2019年に当該要件を「合憲」とする初判断を示していますが、その後の社会状況の変化などを踏まえ、改めて大法廷にて憲法判断を行うとみられています。

 2019年に最高裁判所が「合憲」と判断した際、その理由につき同裁判所は「変更前の性別の生殖機能によって子どもが生まれると、社会に混乱が生じかねないことなどへの配慮に基づくものだ」等と述べています。

 その一方で、生殖機能をなくす「手術」を行うことは、著しい身体への侵襲を伴います。手術そのものも非常に大変なことですが、術後の体調の変化や経済的な負担も軽視できません。

 また、最高裁は2019年の合憲判断の際に「社会に混乱が生じかねない」と述べていますが、これこそ「社会」の変容によって事情は異なってくるはずです。

 最高裁判所大法廷が「社会」の変化や新たな世情を十分に踏まえ、国民からの信頼を得られる判断をすることを期待しています。

(弁護士 安田 知央)

(メールニュース「春告鳥メール便 No.55」 2023.1.27発行)