岩城弁護士の過労死問題最前線(2018年12月~2019年6月)

◆2018年5月に過労死弁護団が過労死・過労自殺の労災認定基準の改定について意見書を提出しましたが、2019年3月以降、これを踏まえた厚労省と過労死弁護団の協議や、超党派議員連盟との合同勉強会、国会の厚生労働委員会での質問などが始まっています。これらの認定基準は過労死防止法制定以前に作られたものであるうえ、様々な不十分点が明らかになってきており、過労死・過労自殺の労災認定切り捨てを生んでいます。認定基準の改定は焦眉の課題といえます。

◆2019年2月23日、過労死問題の研究と救済・予防に巨大な足跡を遺し、昨年8月1日に逝去された森岡孝二先生を追悼するつどいが、「シティプラザ大阪」で開かれました。第1部のシンポジウムには332人、第2部の追悼レセプションには205人が参加しました。この日に合わせて制作された追悼記念誌が配布されました。また森岡先生の遺著「雇用身分社会の出現と労働時間 過労死を生む現代日本の病巣」もこの日出版され、披露されました。改めて森岡先生の歩みと到達点を確認し、私たちが何を引き継ぐかについて共有することができたと思います(なお、追悼記念誌は当事務所で実費1000円で頒布しています)。

◆2019年4月1日、昨年成立した「働き方改革関連法」が施行されました。その内容のうち過労死問題に関係するものは、①時間外労働の上限規制(刑事罰による規制)、②勤務間インターバル(勤務と勤務の間に一定時間を確保する制度)の導入促進(補助金交付などによる誘導)、③有給休暇の年5日取得の義務づけ、④中小企業における月60時間超残業の割増賃金率の引き揚げ(25%から大企業と同じ50%に)、⑤全労働者の労働時間の客観的把握の義務化、⑥フレックスタイム制の拡充、⑦高度プロフェッショナル制度(高プロ)の新設、⑧産業医・産業保健機能の強化、などです。このうち⑦は極めて危険な制度であり、それ以外は不十分ではありますが、働く人々にとってプラスになるものとして積極的に活用していく必要があります。

(弁護士 岩城 穣)

(春告鳥第10号 2019.8.1)