一 名糖運輸大阪営業所堺出張所でトラック運転手として、長年牛乳パック等の配送業務に携わり、九一年二月二三日に倒れた西原道保さん(当時四六歳)の過労死について、妻の西原松子さんは九八年四月一三日、堺労基署長を被告とした行政訴訟と、会社を被告とした民事損害賠償請求訴訟を大阪地裁に同時提訴した。このうち行政訴訟について、去る二〇〇〇年一月二六日、大阪地裁第五民事部 (松本哲泓裁判長)で原告勝訴判決が言い渡された(大阪地裁平成12年1月26日判決・労働判例791号33頁)。
二 本件の争点はいくつかあるが、重要なポイントは、次のような点である。
1) 長期にわたる長時間過密労働と、それによる蓄積疲労の認定
判決は、被災者の業務の実態について、ほぼ全面的に原告の主張を認めたうえで、「被災者の従前業務は、業務の質として精神的及び肉体的負荷の大きいものであるうえ、量としても、一日八時間の所定労働時間を三時間以上も恒常的に超過し、休日も一〇日に一日程度しか与えられないという日常業務(所定労働時間内の業務)に比べて著しく過重なものというべきである。」とし、被災者はこのような業務を約四年間にわたって行ってきたと認定した。
2) 改善基準告示違反の評価
判決は、被災者や同僚らの労働時間が、自動車運転者の労働時間に関する労働省の行政通達(改善基準告示)を大幅に上回っていたことについて、これが労働時間規制のための基準であり業務の過重性の評価基準ではないという被告の主張を排斥し、「被災者や同僚らの勤務状況が拘束時間に関して自動車運転者の最低基準を定めた改善基準告示に違反するものであることも、業務の過重性を示すもの」とし、いわば職場全体が過労死職場であったことを認定した。
3) 慢性疲労の回復という基準
本件では、担当コースの変更により発症直前三日間、被災者の労働時間が減少したことの評価が争点の一つであったが、判決は「従前業務に比べれば、それほど精神的、肉体的に負荷の多い業務とはいえないが、それでも拘束時間は一一時間を超えていたこと、車両の変更、道路の変化、配送先の変更などの業務環境の変化によって、精神的ストレスは増強した」とし、「従前業務による慢性的身体的負荷による疲労が回復するには至っていなかった」と認定した。
4) 急性心不全の原因と医学的因果関係
本件では被災者の解剖がなされなかったため、急性心不全の原因が急性心筋梗塞、致死的不整脈のいずれであるかを特定しにくいという事情があった。これについて判決は、第一次的に急性心筋梗塞と推認し、それについて因果関係を認めたうえで、仮に致死性不整脈であったとしても因果関係が認められるとした。
三 闘いの場は控訴審へ
本件は、労基署段階で四年以上放置され、新認定基準制定直後の九五年九月に労働省の指示により業務外の決定がなされたという異常な経緯があり、また行政訴訟で名糖運輸が行政側に補助参加し、行政と会社が事実上一体となって争ってきたが、提訴と同時に「支援の会」が結成され、法廷傍聴や署名などの支援の輪が大きく広がる中で、提訴後わずか一年九ヶ月で勝訴判決を勝ち取ることができた。
判決後、労基署は控訴するなという闘いが取り組まれたが、被告は控訴し、闘いの舞台は控訴審に移ることになった。高裁の第一回期日は、五月二五日である。
また、民事訴訟もこれから本格的な証拠調べに入っていく予定である。
これまで暖かく支援下さった方々に、この場を借りて厚くお礼を申し上げるとともに、今後も更に大きなご支援をお願いする次第である。
【弁護士 岩城 穣】(民主法律時報334号・2000年3月)
※その後、2001年12月12日付けで新認定基準が制定されたことから、堺労基署は2日後の同月14日に再調査を開始し、同月19日付けで業務上の再認定を行った。そのため、行訴の控訴審は「訴えの利益」消滅により「却下判決」となった。