法改正の概要
1 改正の背景
所有者不明土地とは、①不動産登記簿により所有者がわからない土地、②所有者が判明しても、その所在が不明で連絡がつかない土地のことをいいます。平成29年度の調査では国土の22%を占めるとされ、高齢化の進展によりますます増加することが予想されます。所有者不明土地を放置すると、所有者の探索に多大な時間・費用が必要となって土地の利活用を阻害したり、管理不全となって隣地に悪影響を及ぼしたりといった問題が生じるため、その対策が喫緊の課題となっていました。
そこで、令和3年4月21日、「民法等の一部を改正する法律」及び「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」が成立し、所有者不明土地の発生予防とすでに発生している所有者不明土地の利用の円滑化が図られることとなりました。
2 主要な改正点
(1) 発生予防の方策
第1に、相続登記の申請が義務化され、正当な理由なく登記を怠る場合には10万円以下の過料の制裁が科されることになりました。これは、相続の際に登記の名義変更を行わないことが所有者不明土地の主な発生原因であるためです。他方、義務化に伴う負担軽減策として、登記手続の簡略化や、相続人単独で可能な相続人申告登記の新設が予定されています。
第2に、「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。これは、土地を相続したものの使い道がなく、処分・管理にも困るという場合が増加していること等が所有者不明土地の発生・管理不全化の原因であるとの指摘があるためです。ただ、国庫帰属を広く認めると、所有者が管理コストを国に転嫁するといった弊害が生じる恐れがあるため、通常の管理・処分をするにあたり過分の費用・労力を要しない土地に限って、10年分の標準管理コストを負担させることを条件に国庫帰属を認めることとされました。
(2) 利用の円滑化を図る方策
第1に、所有者不明の土地・建物の管理制度が創設されました。現行の不在者財産管理人制度・相続財産管理人制度では、人単位で財産全般を管理する必要があり、また、所有者が特定できない場合には利用できませんでしたが、新制度では、物単位で所有者不明の場合にも利用可能となりました。
第2に、所在等が不明な共有者がいる場合に、裁判所の関与の下で、共有物の変更や管理を可能にする制度、及び、不明共有者の持分を他の共有者が取得できる制度が創設されました。これは、共有物の変更・管理は共有者の全員又は過半数で行う必要があるところ、共有者の一部が不特定又は所在不明である場合に共有物の適切な管理が実施できない事態を防ぐためです。
第3に、遺産共有状態の早期解消のため、相続開始から10年を経過した後の遺産分割は、原則として法定相続分によって画一的に行うこととされました。遺産共有関係が長期化すると遺産の管理・処分が困難になるほか、所有者不明土地の発生原因にもなりうるためです。
3 さいごに
その他、共有物の変更についての要件の緩和や、ライフラインの設置等の際の隣地使用権等についても重要な改正がなされており、これらの一部は、来年4月1日から施行されます。身近な場面についての法改正ですので、改正後のルールを十分認識しておく必要があるでしょう。
(弁護士 松村 隆志)
(春告鳥第16号 2022.8.3発行)