大阪メトロ社員 パワハラ自死事件で謝罪・再発防止の和解が成立

1 事案の概要

 X氏は大阪市高速電気軌道株式会社(大阪メトロ)のグループ会社に在席出向し、経理業務を担当していましたが、2020年3月6日、大阪メトロ本社屋の17階踊り場で首を吊っているところを発見されました(当時45歳)。

 X氏は長年にわたり精神疾患の治療を続けていましたが、2019年に仕事に復帰し、同年8月の産業医面談のメモでも「はっきりと回復傾向」「ほぼ通常の状態」などと記載されていました。

 X氏は、2020年1月25日ころまでに丸坊主になり、家族に「仕事できひんからペナルティや。」「俺が悪いねん。」などと述べていました。

 X氏の死後、大阪メトロが社内調査を行った結果、上司のY氏がX氏に対し「アホ」「仕事辞めてまえ」「死んでまえ」などの言動を行っていたこと、Y氏がX氏に対し、丸坊主になることを求められていると受け止められてもやむを得ないような発言をしたことなどが確認されました。

2 労災申請と業務上認定

 私たちはX氏のご遺族から依頼を受け、2020年11月16日、大阪西労基署に労災申請を行いました。時間外労働時間は社内パソコンのログイン・ログアウト時刻や入退室記録等から算出し、パワハラについては、大阪メトロからの調査報告のほか、X氏の携帯電話に残された携帯メールや、主治医のカルテの記載などから明らかにしました。

 2021年6月17日、業務上の決定が出されました。労基署の認定理由は、発症時期は2020年1月下旬ころで、発症直前3週間に120時間以上の時間外労働が認められたことが認定基準の「特別な出来事」に該当すると判断したというものでした。

3 会社との交渉と合意の成立

 2021年10月下旬、会社(大阪メトロ及び出向先会社)と役員・Y氏ら(以下「会社ら」)に通知書を発送し、会社ら代理人と交渉を重ねた結果、2022年3月7日、次のような内容の合意書が調印されました。

①会社らは、X氏が誠実に勤務し会社の発展に多大の貢献をしたことを高く評価し、X氏と遺族に深く感謝する。

②会社らは、長時間労働とY氏のパワハラがX氏に強い心理的負担を与えたこと、これらを適切に防止できなかったことを認め、X氏と遺族に心から謝罪する。

③会社らは今後、長時間労働の削減とパワハラ防止について最大限努力することを約束し、大阪メトロは再発防止策を会社ホームページで公表する。

④Y氏は遺族に、直筆の謝罪文を手渡す。

⑤大阪メトロは遺族に解決金を支払う。

 調印の場では、大阪メトロの社長自らが口頭で遺族らに直接謝罪するとともに、同行した役員から具体的な再発防止策の説明と、既に行ったY氏ら関係者6人の処分内容の説明が行われました。調印後、司法記者クラブで記者会見を行ったところ、ほとんどの新聞や在阪テレビが報道しました。

4 和解についての評価

 裁判を経ることなく、損害賠償のほか、感謝、業務起因性と安全配慮義務違反、謝罪(面談及び謝罪文交付を含む)、関係者の処分、具体的な再発防止策の提示などを行わせたことの意義は大変大きいと思います。

 トヨタの過労自殺事案でも行われたように、社長自身の直接謝罪と再発防止の宣言や、具体的な再発防止策の公表は、企業の社会的責任の明確化や再発防止の観点から、大変重要です。

 このような和解が成立したことによって、ただちに長時間労働やパワハラがなくなるとはいえませんが、ほとんどのマスコミが報道したこともあわせて、大きな抑制的効果があると考えられます。 (担当弁護士は私と安田知央)

弁護士 岩城 穣

(春告鳥第16号 2022.8.3発行)