最高裁は、2025年6月27日、国が2013年から2015年にかけて生活保護基準を大幅に引き下げたことは違法であるとして、減額決定を取り消す画期的な判決を言い渡しました。
生活保護法は、「この法律により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない。」とし、厚生労働大臣が「最低限度の生活の需要を満たすに十分な」基準を定めるものとしています。
これまでの最高裁判例では、「健康で文化的な生活水準」が抽象的かつ相対的な概念であること、高度の専門技術的な考察とそれに基づく政策的判断を必要とすることから、厚生労働大臣に「専門技術的かつ政策的な見地からの裁量」が認められるとし、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性などに照らして、その判断の過程及び手続に過誤、欠落がある場合には、裁量権の範囲の逸脱・濫用として違法になるとされていました。
本判決もこの「判断過程審査」を採用し、国が物価変動を理由として基準を一律に4.78%減じたことについて、物価はあくまで消費と関連付けられる諸要素の一つにすぎず、物価変動が直ちに同程度の消費水準の変動をもたらすものとはいえない、物価変動率のみを直接の指標として基準の改定率を定めることが専門的知見などと整合すると言うために必要な説明を国がしたとはいえないとして、判断の過程及び手続には過誤・欠落があり違法と判断しました。
2013年の生活保護基準引下げから10年以上にわたり裁判をたたかってきた原告の皆さんと弁護団の先生方には心から敬意を表したいと思います。弁護団にはお世話になっている先生方が何人も参加され、熱心に活動しておられました。このような画期的な判決が出され、その苦労が報われたことは、純粋に喜ばしく思います。
しかし、判決が出されたことで終わりではありません。そもそも国が2013年に生活保護基準を大幅に引き下げたのは、2012年の衆議院議員選挙において自民党が「生活保護給付水準の10%引下げ」を掲げて政権に復帰したことによる影響が大きいものと思われます。このような理由で最低限度の生活が切り下げられてよいはずがありません。
日本国憲法第25条第1項が「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めるとおり、生存権は施しではなく国民の権利です。最低限度の生活の切り下げは、自らの足元を切り崩すに等しいものです。二度と同じ過ちを繰り返すことのないよう、今後は生活保護を切り下げられたことに対する補償と、このような引下げの判断に至る過程の徹底的な検証、再発防止策の策定がなされることが不可欠です。
弁護士 松村 隆志
(いわき総合法律事務所メールニュース「春告鳥メール便」2025年8月12日発行)