岩城弁護士の過労死問題最前線(2024年12月~2025年6月)

◆2025年3月4日、海外に派遣され働いている期間中に過労で倒れた本人や遺族による交流会が初めて行われました。この場で「海外労働連絡会」が発足し、私も共同代表の一人になりました。海外で働く人たちは約80万人にのぼるといわれていますが、労災補償を受けるための「特別加入」の手続きがなされているとは限らないこと、言語の異なる海外の現地で、少人数で責任の重い仕事をしていることが多い一方、労働時間の管理が不十分であるのが一般であること、労基署の監督行政が海外に及ばないことなどから、倒れても救済を受けられない人が多いと考えられます。今後、交流を重ねながら、国に実態調査や法整備を求めていくことになると思います。

◆3月7日、最高裁第二小法廷で、過労死・過労自殺分野で重要な判決が出されました。労働者の過労自殺について使用者が責任を負うか否かの判断にあたっては、①従事した業務にかかる事情を総合的に考慮すべきである、②その際、厚労省や地公災基金の定める認定基準に示された知見もしん酌することができるが、③認定基準が示す要件に該当しないことをもって直ちに損害賠償責任が否定されるものではない、としたのです。これまで、行政訴訟でも民事訴訟でも、認定基準を絶対視して機械的に当てはめ、これに該当しないとして業務起因性や相当因果関係を否定する判決が多かったため、今後の裁判に大きな影響を与える判決と評価されます。

◆6月25日、厚労省から令和6年度の「過労死等の労災補償状況」が公表されました。脳・心臓疾患、精神障害のいずれについても、請求件数、決定件数、支給決定(労災として認定)件数がすべて前年度から増加しており、深刻な状況が継続しています。特に精神障害の請求件数は4年前のほぼ2倍になり、4000件突破が目前という状況です。過労死等防止対策推進法が議員立法で成立してから10年が過ぎましたが、残念ながら過重労働やパワハラによる過労死・過労自殺は減少する気配を見せていないのが現状です。

弁護士 岩城 穣

(春告鳥22号 2025.8.3発行)