大企業の中の思想差別

1994年7月20日

 1994年6月10日、大阪地裁の202号大法廷で、関西電力賃金差別事件の第一回口頭弁論が開かれた。この事件は関西電力が30年以上にわたって、会社が共産党員またはその支持者を徹底的に排除し、見せしめのために昇格・昇級をさせず差別してきたことに対し、退職まぢかの15名の労働者が差別賃金と慰謝料を求めて今年(1995年)2月に提訴したものである。

 同僚を酒に誘うと、その同僚は翌日呼び出される。どんなに一生懸命仕事をしても、ふさわしい地位を与えられない。何十年にわたって屈辱を味わい、同期に入社した人たちとはもう年収で150~250万円もの格差がついている。のみならず、退職時の低賃金は年金に反映するため、まさに「墓場まで」差別され続けるのである。

 いったい、自分の思想信条を理由に差別されることほど辛いことがあろうか。憲法19条は「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」と宣言しているが、大企業の中で未だにこのような前近代的な人権侵害か行われているのである。

 その狙いは何か。職場で発言すると「お前は共産党か」と睨まれることから、もの言えぬ職場になり、徹底した合理化が行われてきたのである。

 すでに関東では、東京電力を相手に前橋、甲府、千葉、長野、東京の 地裁で訴訟が闘われ、まだ判決の出ていない東京以外の4つの地裁では、全て原告勝訴の判決が出され、現在東京高裁に係属している。

 15人の原告団は、既に退職した1名を含め、長い人であと7年で定年退職を迎える人たちだ。いろいろ な悩みもあっただろう。しかし、「このまま差別され続けたまま終わりたくない」という思いから、自らを奮いたたせて闘いを開始したのである。

 原告たちは「自分たちが在職中にできるだけ解決したい」と願っている。7年後というと、ちょうど21世紀を迎える年である。何としても今世紀中に勝利して、21世紀を自由と平等が花開く時代にしたいと思っている。

弁護士 岩城 穣(「天王寺法律事務所ニュース」第49号 1994年7月20日発行)