風害訴訟で画期的判決

2005年4月13日

 自宅から約20メートル離れた場所に20階建マンションが建築後、激しい強風(ビル風)が吹くようになり転居を余儀なくされた2世帯6人が、マンションを分譲販売した丸紅、建築した竹中工務店等を被告として平成11年12月に損害賠償請求訴訟を提訴した。

 一審の大阪地裁(平成13年11月30日判決※1)は、風環境の悪化につき因果関係と違法性を認めたものの、損害として一人慰謝料60万円と弁護士費用10万円しか認めなかったのに対し、二審大阪高裁(平成15年10月28日判決※2)は、慰謝料を一人100万円に増額したうえ、風害による土地・建物の価格下落分としてそれぞれ約550万円の財産的損害を認定し、既に支払われた一審認容額に加え、更に1490万円の支払いを命じた(合計約1910万円)。

 この判決は、次の点で画期的な意義を持つと思う。

 第一に、「良好な風環境を享受することは‥‥法的に保護される人格的利益」であること、すなわち人格権としての「風環境権」を明確に認め、その侵害を違法と認めたことである。建築基準法等の現在の行政法規が風環境への影響について特段の規制をしていない中で、このことは極めて重要である。

 第二に、ビル風の予測方法として、被告らが行った簡易な「風環境予測システム」だけでは不十分であり、原告らが要求した、より精度の高い風洞実験による調査をも実施すべきであったとしたことである。風洞実験は高額な費用がかかることから、一般に業者は行いたがらないが、風害の不安を感じる住民はこれを要求してよいということである。

 第三に、風環境権の侵害に対しては、単に精神的損害(慰謝料)のみならず、土地建物の下落による財産的損害も認められ得る、としたことである。これまで日照や騒音など住環境をめぐる事件では、裁判所は慰謝料しか認めてこなかったが、財産的損害をも認める先例となったといえる。
 今後の住環境や都市開発をめぐる取り組みに、この判決を活用いただければ幸いである。

弁護士 岩城 穣(青法協弁学合同部会第36回総会議案書
 五 人権を守る諸活動 3 環境・公害問題 所収)

※1 (1審)大阪地裁平成13年11月30日判決・判例タイムズ1113号178頁、判例時報1802号95頁
※2 (2審)大阪高裁平成15年10月28日判決・判例時報1856号108頁